• 高等学校 地理

<授業研究 地理> 多様な資料の活用によるストーリー性を持たせた「地理総合」の実践 -東南アジアの生活文化を事例として-

2026年度 後期号

◆授業研究 地理

多様な資料の活用によるストーリー性を持たせた「地理総合」の実践

−東南アジアの生活文化を事例として−

ダミーイメージ

神奈川県立有馬高等学校 桐原 桃子

1, はじめに

現行の学習指導要領になり、必履修科目となった「地理総合」では、地理を専門とする教員以外が「地理総合」を担当することが珍しくなくなっている。一方で、「地理総合」という科目は、網羅的に地理的事象について取り扱う「地理探究」の学習内容と異なり、地理的事象の中でも基礎的な内容の習得に主眼が置かれている。そのため、単に教科書をなぞっただけの授業では、生徒の興味・関心を引きつけることは困難であり、1時間の授業や単元を通じてストーリー性を持たせた授業を展開することが有効であると考えられる。

しかし、こうした授業展開は、地理を専門とする教員にとっても決して平易ではない。筆者は、「地理総合」の指導において、どのようなコンセプトや手順で授業を展開すれば、生徒の興味・関心を引き出し、学習の成果として達成感や有能感を醸成することができるかに焦点を当て、日々の授業実践を重ねてきた。本稿では、そうした実践からの授業展開例を紹介する。専門知識の有無にかかわらず、「地理総合」を担当する教員の一助となれば幸いである。

2, 気候分野の単元の設定

今回は気候分野を例にとり、『新詳地理資料 COMPLETE2026』(以下、資料集)や帝国書院Webサイトからダウンロード可能な写真資料など、多くの資料を活用した、授業展開例を紹介する(  表1 )。

   表1 単元の授業計画
(帝国書院『高等学校 新地理総合』の内容に基づく)

国立教育政策研究所の『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料(高等学校 地理歴史)』には、単元全体に関わる問い(単元を貫く問い)を設定し、さらに授業ごとの学習課題(本時の問い)を設定する事例が掲載されている。このような授業展開の事例は、単元としてのまとまりにストーリー性を付与する効果もあると感じている。

さらに、筆者は単元の総まとめとして、事例学習を取り入れ、単元を通して得た知識を活用し、より具体性のある課題に対して思考させるという授業展開が、効果的であると考えている。本稿では、その総まとめの事例として、東南アジアをテーマにした実践について述べることとする。

3, 授業展開例

(1)季節風の影響を受けた生活文化【高床住居】(第7時前半)

第7時と第8時の共通の問いとして、「東南アジアでは、気候を生かしてどのような生活文化が育まれてきたのか?」を設定する。「生活文化」は高校生にとってピンとこない言葉であるが、衣食住などの生活上の習慣に加え、言語や宗教なども含めた意味があると補足説明を行う。筆者が実際に行った実践での、学習を始める前の生徒の回答としては、「家は風通しが良くなり、服は半袖になる(住居・衣服)」、「バナナなどの作物がとれる(農業)」などが挙がり、東南アジアが熱帯地域に属すること(第4時)についてはおおむね把握できている様子であった。

授業の導入としては、帝国書院Webサイトの動画・写真ライブラリーのカンボジアの写真「高床の家屋」と「高床になっている寺院」(  写真1 )を見せ、「なぜカンボジアのトンレサップ湖畔の住居や寺院が高床になっているのか」について問いかける。このとき季節風の話はあえて伏せ、自由な発想で考えさせたい。写真は、資料集p.53 2「熱帯雨林気候」の写真「❾高床の住居」でもよいが、図のキャプションに高床になっている理由について書かれているため、あえて写真のみの資料を提示することで考えさせることとした。生徒の意見としては、「湿気が多いから家が腐らないようにするため」、「虫が多いからその侵入を防ぐため」などが挙がったが、季節風と結び付いた解答はこの時点では挙がらなかった。

   写真1 高床になっている寺院(カンボジア)
帝国書院Webサイト「動画・写真ライブラリー」

次に、資料集p.45 3「季節風(モンスーン)」の「❺モンスーンと降水量の季節変化」(  図1 )を参照し、①「なぜ7月の東南アジア大陸部の降水量が多いのか」、②「なぜ季節によって風の吹く向きが異なるのか」という2つの問いを考えさせる。これらの知識に関する学習事項は、第2時で学習した季節風の内容の復習となる。

   図1 ❺モンスーンと降水量の季節変化
『新詳地理資料 COMPLETE 2026』p.45

季節風の仕組みと降水量の変化を確認したのち、導入の冒頭の「なぜ住居や寺院が高床になっているのか」についてもう一度問いかける。すると、 図1 とつながり、季節風による降水と高床が関係しているという回答ができるようになる。

その際、資料集p.222 2「季節風の影響を受ける気候」の写真「❹トンレサップ湖の雨季と乾季」を参照し、実際に雨季と乾季でトンレサップ湖の水量が増減することを説明し、高床が雨季の増水に備えた生活の工夫であったことを認識させる。

(2)季節風の影響を受けた生活文化【イスラーム】(第7時後半)

『高等学校 新地理総合』(以下、教科書)p.76~77の内容を学習したのち、資料集p.223 2「地域によって異なる宗教」で図「⓫東南アジアの宗教の分布と伝播(でんぱ)」(  図2 )を参照させ、「❿托鉢(たくはつ)の様子」(  写真2 )、「⓬フィリピンのキリスト教会」、「⓭モスクでの金曜礼拝の様子」でそれぞれの宗教のイメージをつかませる。

   図2 ⓫東南アジアの宗教の分布と伝播
『新詳地理資料 COMPLETE 2026』p.223

   写真2 ❿托鉢の様子(ラオス)
『新詳地理資料 COMPLETE 2026』p.223
〈写真提供:hemis.fr/時事通信フォト〉

筆者が行った実践では、「仏教の伝播ルートとイスラームの伝播ルートの違いについて、 図1 と  図2 を参照して、30字以上60字以内で説明しよう」という問題を設定し、論述形式で解答を書かせた。図の読み取りと教科書本文の記述を参考に、仏教は陸上を中心に伝播している一方、イスラームは海上を中心に伝播しており、海上を通じて伝播したのはムスリム商人が季節風を利用して交易を行った際に広がった宗教であるからである、という趣旨の解答を書くことができた生徒も見られた。

(3)季節風の影響を受けた生活文化【米食文化】(第8時前半)

第8時の導入では、帝国書院Webサイトの動画・写真ライブラリーのベトナムの「フォーを食べる人」(  写真3 )、タイの「ソムタム(青パパイアのサラダ、隣には米が盛られている)」の写真、ブルネイの「葉で包まれた米の料理を売る店(「ケルピス」という餅米をやしの葉などで包んで蒸す料理)」などを見せ、「これらの国の食文化の共通点は何か」を考えさせた。実際の実践では、筆者が学生時代に訪れた際に撮影したカンボジアで朝食として食べられるボボー(おかゆ)(  写真4 )や、ラオスの食卓に並ぶ竹籠に入った餅米の写真も提示した(  写真5 )。これらの国の食事には、米が使われていることを確認し、なぜ米を主食としているのか、第7時で取り扱った  図1 を基に考えさせると、多くの生徒が「降水量が多い雨季が米の栽培に適しているから」といった解答にたどり着いていた。食事の例については、資料集p.224のコラム「世界の生活文化 多様な米食文化」(  図3 )のベトナムの「❻生春巻き」やマレーシアの「❼ラクサ」も参照させると、多様な米食文化のイメージをつかませやすい。

   写真3 フォーを食べる人(ベトナム)
帝国書院Webサイト「動画・写真ライブラリー」

   写真4 カンボジアで朝食として食べられるボボー(おかゆ)(筆者撮影)

   写真5 餅米が並ぶラオスの食卓(筆者撮影)

   図3 コラム「世界の生活文化 多様な米食文化」
『新詳地理資料 COMPLETE 2026』p.224

次に、資料集p.224 1の図「❶東南アジアの農業地域」を参照し、稲作地はどのようなところに見られるか、地形と絡めて考えさせる。筆者の実践では、「東南アジアで稲作が盛んになった自然的な背景を、「❶東南アジアの農業地域」や、 図1 を参照し、60字以上90字以内で説明しよう」という問題を設定し、論述形式の解答を書かせた。大河川沿いの三角州地帯が低平であることと、本時の導入で確認した季節風の影響による雨季の降水と乾季の強い日差しが稲の生育に適していることの両方を押さえたものが模範解答となる。指定文字数が多く、多くの要素を押さえた解答が求められることから、論述に苦戦する生徒も多かったが、自然的背景を地形と気候の両面から考えるように補足すると、低平な地形と季節風による降雨について、要点を押さえた表現として書くことができた生徒の姿が見られた。

(4)季節風の影響を受けた生活文化【まとめ】(第8時後半)

第7時と第8時のまとめの活動として、共通の問いである「東南アジアでは、気候を生かしてどのような生活文化が育まれてきたのか?」について、再度問いかける。(1)~(3)の内容を踏まえた問いの答えを書くことを目標として提示する。

要点を押さえることができた生徒の解答例として、「東南アジアは季節風の影響を強く受け、雨季は降水量が多く、乾季は強い日差しがさすため稲作が盛んである。また、季節風を利用し、古くから海の交易が行われていたため、仏教やイスラームなど宗教の多様性が多く見られ、イスラームは海上での経路で伝播した」、「東南アジアは季節風の影響を受けて乾季と雨季があり、それに合わせて高床住居などの生活文化が発達した。また、昔は季節風を利用して海を伝う貿易が発達し、同時に宗教も伝わってきた」などといったものが見られた。

4, 授業に対する生徒の反応

第7時・第8時の授業を受けた感想をアンケートしたところ、「季節風が農業だけではなくて、船にも利用されていて宗教の伝播にも影響していたことを初めて知った」といった季節風がもたらす生活文化への影響の多様さに気付いたという回答や、「東南アジアのイメージは暑くてあまりきれいな観光地のイメージはなかったが、食文化は米を食べるという点が日本と似ているから生きやすそうだと感じた」、「東南アジアは他の国と比べたらまあまあ日本から近いところだと思っていたが、少し赤道に近いだけでこんなにも生活が違うのだと思った」など、今まで持っていた東南アジアのイメージとのギャップに驚いたという回答も目立った。以上のような生徒の率直な感想は、ストーリー性を持たせた授業展開や、写真や図表などの資料を多く見せたことによるものではないかと感じている。

5, おわりに

1時間の授業におけるストーリーの構築や、生徒の思考を促す問いかけには、教科書の説明文や掲載図版を活用しながら、資料集にしか掲載されていない重要な統計や図表を提示することが効果的であると考えている。現在は、インターネットで簡単に写真や統計データなどの資料を手に入れることができるが、著作権や肖像権などの問題も多いため、出典が確かな資料集の図表を使うことは、教員としても安心・安全である。それに加え、提示した資料を生徒が手元で見られるということも、視認性の良さや理解・記憶のしやすさから、より高い学習効果につながっているように感じている。

また、写真資料については、帝国書院Webサイトの動画・写真ライブラリー掲載資料は、ラインアップが豊富であり、ビジュアル面でも分かりやすいため、授業で活用しやすい。今回、米食文化の例を写真で生徒に見せたいと考えた際、教科書、資料集には掲載されていないものを探すときに使い勝手が良かった。世界の写真を例にとると、国ごとに写真のサムネイルを表示できるため、必要とする写真が視覚的に探しやすい。さらに検索機能を使えば、キーワードを入力することで、目当ての写真を簡単に探すことができる。今回は米食文化に関する写真が必要であったため、「米」というキーワードで検索したところ、前述の写真を見つけ出すことができた。紙の手元資料の重要性を感じつつも、多くの資料に触れる機会をつくれる点においては、こちらを活用することもおすすめしたい。

また、1時間の授業にストーリー性を持たせるには、質の良い問いづくりが重要であるが、特に地理を専門としない教員にとっては、この問いづくりこそが授業づくりの中で最も苦労していることではないだろうか。教科書『高等学校 新地理総合』には、各ページの冒頭にその学習内容についての問いが提示されており、まずはこちらを授業の根幹となる問いとして使用することを推奨するが、授業の導入となる問いや、地理的事象を資料から読み取らせるための問いといった授業内の「小さな問い」も必要であり、こちらもどのようにつくればよいか考えるのは非常に骨の折れる作業である。

そこで、資料集の各見開きの冒頭に掲載されている地理力+プラスの活用を提案したい。地理力+プラスには、資料集掲載資料から地理的事象のポイントを読み取る力の醸成につながる問いとその解答例が掲載されている。生徒の思考力を向上させる効果が期待できることはもちろん、大学入試で出題される論述問題対策としても有効である。こちらの問いを軸に、1時間の授業を構築していくのも、ストーリー性を持たせた授業展開づくりの一案として提案したい。


帝国書院Webサイトの「動画・写真ライブラリー」は帝国書院Webサイトよりご覧いただけます。

本授業のワークシートは帝国書院Webサイトよりご覧いただけます。