- 中学校 地理
<著者を訪ねて> 『社会科 中学生の地理』監修者 加賀美 雅弘 先生
2026年度 後期号
◆著者を訪ねて
『社会科 中学生の地理』監修者 加賀美 雅弘 先生
経歴 東京学芸大学名誉教授・教育学部(地理学)特任教授。理学博士。研究分野はヨーロッパ地誌、エスニック地理学。関連著書多数。趣味はカメラ、映画鑑賞、街歩き、温泉・銭湯巡りなど。
帝国書院『社会科 中学生の地理』の監修を務める東京学芸大学名誉教授の加賀美雅弘先生に、地図に初めて触れた子どものころのことや、地理学を志した学生時代のこと、教科書作りに対する思いをうかがいました。
1.子ども時代のエピソードや、ご専攻の地理研究について
――どのようなお子さんでしたか。
加古里子(かこさとし)さんの絵本『かわ』(福音館書店)が好きでした。表紙と裏表紙の地形図に目を引かれ、川の流れに沿って風景が変わっていく場面展開の楽しさはもちろん、絵や地図を見ながら旅ができることの楽しさも知りました。父とよく山歩きをした六甲山では、父の持つ地形図の地図記号と目の前にある花崗岩の岩肌が一致するという感動を味わいました。そういう体験も現在につながっていると思いますね。
加古里子 作・絵『かわ』(1966年、福音館書店)
――ドイツ留学時代について教えてください。
大学院で地理学研究を始めた1980年代当時、私が取り組んでいた「疾病地理」という分野の研究は、必要なデータの入手が困難だったこともあり行き詰まりを感じていました。そんな私の転機となったのがドイツへの留学です。そこで出会った恩師に「自分が面白いと思ったものを諦めず、道がなければ自分で切り開いていけばいい」と勇気づけられ、10年かけて論文にまとめることができました。自分の考えを相手に説明する姿勢や、相手とフラットに意見交流する感覚、他人は他人・自分は自分であるという考え方はドイツで学びました。近年、若者が海外に行かない、あるいは行けない状況が見られますが、ぜひ積極的に外に出て、外国でしか手に入らない感覚を獲得してきてほしいですね。
――特に印象深い巡検の思い出はありますか。
私が巡検を企画するときは、参加者の「なぜ」という疑問をかき立てることを心がけています。このような巡検のあり方を決定づけたのは、学生と同行したアウシュヴィッツ強制収容所(ポーランド)です。当初は旅行気分だった学生たちが、本でしか見たことのなかった虐殺の現場や遺品というリアルに対面して顔つきが変わっていき、「なぜこの場所が選ばれたのか」と自発的に疑問を抱き始めました。通常はバスで移動する2つの収容所の間を歩かせ、そこが低湿地であることを肌で実感させると、彼らはナチスがなぜこの場所に収容所をつくったのか深く考え始め、その夜のホテルでの討論は、それぞれが自発的に語り続けるほど熱い議論の場となりました。「みんなで行く」ということは、同じものを見た仲間の考えが聞けるということです。この経験以降、巡検では感じたことを共有し、ともに考える機会を設けるようにしています。
▲2005年3月、ハンガリーのブダペスト巡検にて。
▲学生を連れて巡ったベルリン巡検(2006年、3月)。
2.中学校社会科の教科書作りについて
――教科書作りのエピソードを教えてください。
地理は「歩けば楽しい、違う国に行けば面白い」という、観光に近い魅力を持つ科目です。その魅力が伝わるように、教科書には「人」の写真を積極的に使うことを心掛けました。そこに生きる人々がどのような表情で、どのような衣食住で生きているのかがまっすぐ伝わる写真を載せることで、読者に親近感を持たせたいと考えました。ページ数の都合で語り切れなかった内容は指導書や副教材で補えていますし、見ごたえのある教科書になっています。
これまでの教科書づくりで印象深かったのは、いわゆる「ゆとり教育」のときです。写真を大きく扱って、「1枚の写真から考えよう」というスタンスは地理の魅力と相性が良く、楽しい教科書になると感じました。もちろん情報として知識は必要ですが、受験向けに知識を詰め込むだけではなく、世界にある多様な暮らしを知り、それが自分たちの生活とつながっていることを知るというのは地理本来の醍醐味といえます。このような地理の楽しさを子どもたちに伝えていきたいですね。
3.教科書を使って学ぶ子どもたちと地理の先生方に向けて
――教科書を通して、子どもたちに身につけてほしい力はどのようなものでしょうか。
地理は、「知識」「経験」「地理的想像力(イマジネーション)」という3つの要素を組み合わせることで、行ったことがない場所であっても全体像を自分で把握することができる分野です。とりわけ小中高の地理は、身近な自分の経験を踏まえた形で、徐々に広い地域を学んでいきます。つまり常に拠り所は自分の経験です。子どもたちには身近な地域の経験から、周囲の地域、果ては世界が、自分の暮らしと何が似ていて何が違うのか、自分の暮らしとどう関係しているのかに敏感になってほしいですね。
――先生方へのメッセージをお願いします。
先生自身が地理にハマって楽しんでほしいです。地理には「現場」が存在するので、現場に行って写真に撮ったり、その場所の人に話を聞いたりして自分が面白いと思ったことはそのまま子どもたちに伝えることができます。先生が楽しんで「これ面白いよ」と言っていると、子どもたちは次第に「なんか面白そう」と引き込まれてくれます。先生と同じような面白さが実感できれば、子どもたちは自分なりの「面白い」を見つけに行くのではないでしょうか。
また、実際に現場に行けない場合でも、イマジネーションを働かせて自信をもって説明してほしいです。そのためには、先生自身が日々の生活の中で、知識や経験を蓄えることが大事です。日頃の暮らしをベースにして、「きっとあの地域はこんな生活ではないか」と絵のようにして描けるものがあって初めて、地域が理解できるということになると思います。
(2026年5月にインタビューしました。)





