- 中学校 ICT活用
デジタル教科書の現在と未来 ~共同実証研究事業を通して見えてきたこと~
2026年度 後期号
◆ICT活用の現在を訪ねる
デジタル教科書の現在(いま)と未来
~共同実証研究事業を通して見えてきたこと~
帝国書院では、昨年度から社会科のデジタル教科書・教材の活用に関する共同実証研究事業を産学連携のもと行っています。
今号は、中学校での社会科授業の実践報告を通して、収集できた知見やデータの中間報告となるシンポジウムの様子を紹介します。
共同実証研究事業とは?
2030年度からデジタル教科書が正式な教科書として導入されるにあたり、2025年10月より、千葉大学・広島大学・愛媛大学・お茶の水女子大学それぞれと帝国書院が産学連携し、2カ年にわたる『中学校社会科の教科特性に応じた一人一台端末とデジタル教科書・教材の活用に関する共同実証研究事業』(以下、事業)を開始した。今後の授業改善や教材開発、生徒の学びの深化に向けて取り組むこととしている。
シンポジウムレポート
事業初年度を終えた中間報告として、授業の実践報告や講評、分析、分野別での質疑応答が行われました。
<開催概要>
日時・会場:2026年3月22日 9:30〜12:00・成蹊小学校
参加者:教員(主に社会科)、教育学研究者、教員を目指す学生
テーマ:デジタル教科書の特性を生かした新たな社会科の授業開発 〜千葉大学・広島大学・愛媛大学・お茶の水女子大学・帝国書院によるデジタル教科書共同実証研究の取組から〜
約100名の参加者を前に、基調提案や帝国書院デジタル教科書の特長紹介などを経て、地理的分野、歴史的分野、公民的分野で実践された4つの授業の成果報告と指導講評がなされました。
例えば、「学びコネクト」※1を使った「琉球とアイヌ民族がつなぐ交易」の授業の実践報告では、授業冒頭の学習問題の設定において、学ぶ事象との“意外なつながり”を主体的に見つけられるようにした授業づくりについて紹介されました。生徒各自が、交易品やアジアとの関係に着目した問いなどを構想し、ワークシートに記入して進めていました。他にも「主題図比較」や「まとめも」※2など複数の機能を組み合わせて中国・四国地方の「地域おこし」の取り組みや背景を考察する地理的分野の授業や、「ぱんSim」※3を使って「具体」と「抽象」を往還する思考活動を通して概念理解を追究する公民的分野の授業など、デジタル教科書の機能を生かした実践例が紹介されました。
※1:学習内容に関するコンテンツを、各分野・時代横断的に閲覧できる機能
※2:教科書の本文などからカードを作成し、思考ツールを用いて整理できる機能
※3:経済単元を網羅したパン屋さん経営シミュレーションコンテンツ
※1〜3は現在の学習者用デジタル教科書+教材セットにて実装されている帝国書院のオリジナルコンテンツです。
▲広島大学附属中学校の久賀隆之先生による「学びコネクト」を使った授業の報告。
「学びコネクト」で表示された中から生徒が“意外なつながり”を感じたものはどれかを紹介している様子。
▲「学びコネクト」ではそのページの学習内容に関する図や本文が他分野の教科書などから表示される。
これにより、各時代のつながりや他分野との関連を主体的に考察できるようになると考えられる。
▲愛媛大学教育学部附属中学校の高橋祐貴先生による「ぱんSim」を使った授業の報告。
生徒自身が経営戦略シートで、パン屋さんの経営シミュレーションを振り返り、分析した内容を紹介している様子。
また、本事業では、「学習ログ」の取得と利活用についても研究しています。生徒が多く見ているページ・資料、機能の活用状況を可視化し、「社会科に特化した教科ログの取得・分析」に着手しています。広島大学の池尻良平准教授からは、生徒のアンケートと各種学習ログの利用時間数・回数に相関があるかを分析した結果が報告され、「デジタル教科書を活用することで、様々な枠を超えた知識の接続が促進される」という仮説が提示されました。
▲帝国書院が試作した学習ログの可視化の一例
■本事業にご参加いただいた先生方
地理的分野:授業者 お茶の水女子大学附属中学校 渡邊 智紀 先生、指導助言 千葉大学准教授 阪上 弘彬 先生
歴史的分野:授業者 広島大学附属中・高等学校 久賀 隆之 先生・原田 歩 先生、指導助言 広島大学准教授 池尻 良平 先生
公民的分野:授業者 愛媛大学教育学部附属中学校 高橋 祐貴 先生、指導助言 愛媛大学准教授 井上 昌善 先生
良い点 「まとめも」や「学びコネクト」など分野間の枠を超えた知識の接続が促せる
様々な利点がある中でも、生徒が獲得した知識を構造的に表現できる「まとめも」や、分野横断で連携できる「学びコネクト」は、生徒が主体的に学習を深められます。
課題 デジタル教科書の機能を不適切に使う生徒が出てきてしまう
先生の話を聞かずに関係ない機能を使う生徒も出てきました。授業の進度に合わせて、デジタル教科書で使える機能の自由と制限のバランスをコントロールする必要があります。
参加者の声
インタビューやアンケートから、参加された先生方の感想をご紹介します!
新しい情報や発見があり、とても面白かったですね! 探究的な学びをどう仕込むかが大事だと思いました。
「主題図比較」や「まとめも」などを、どう探究的な学びを仕込むか考えながら活用してみたいですね。デジタル教科書を資料のデータベースとして使いながら、課題を自分でまとめていくようなやり方を進めるにはデジタルが向いていると思います。特に「まとめも」は、生徒たち自身で情報をつなげていますよね。知識を構築していく部分ではとても有効だなと思いました。
直感的な操作や共有のしやすさはデジタルの良さ。課題は分野を横断してどう連携していくかですね。
図の「レイヤー機能」や、北海道などと大きさをパッと比較できる機能など、直感的に操作できるので、生徒の思考を停滞させないですね。また、生徒間で共有がしやすいのもデジタルの大きな利点だと思います。一方、デジタル教科書の機能が各分野に特化すればするほど、探究的な学びで分野を横断して考えさせるにはどうしたらよいかが、今後の課題になると思いました。
様々な枠組みから歴史を捉える際、デジタルツールは他者の価値観や考え方を参照したり、交流したりしやすいと感じた。
学習ログについて、生徒たちがどのようにデジタル教科書を活用しているかを適切に評価できれば、授業の改善につながると思う。
〈帝国書院ICT開発推進室より〉
本事業は2年計画で、初年度は三分野の授業でデジタル教科書の機能・コンテンツを幅広く活用し、社会科におけるデジタル教科書の学習効果を立証するための仮説生成を目標としてきました。初年度成果として、大学研究者と授業者の先生方のご尽力のおかげで、仮説を立てることができました。全体仮説:デジタル教科書上の多様なリンク機能を活用すると、社会科で新しく学んだ知識をすでに学んだ知識とつなげて理解することが促進される。加えて、生徒の学習ログの取得と可視化に関しても一定の知見を得ることもできました。今年度は全体及び各分野で設定した仮説をより具体的な学習内容に絞って実践し、学習ログも絡めてデジタル教科書の社会科における学習効果を実証できればと考えております。
本事業の実践報告は今後別の冊子でも詳しく紹介してまいります。









