• 中学校 公民

<授業研究 公民>思考ツールで深める地球的課題の探究学習 ―2度の表現活動で生徒が自身の資質・能力の伸びを可視化―

2026年度 後期号

◆授業研究 公民

思考ツールで深める地球的課題の探究学習

-2度の表現活動で生徒が自身の資質・能力の伸びを可視化ー

神奈川県 横浜市立潮田中学校 主幹教諭 松藤 望

1 はじめに 

学習指導要領の社会科の目標では、「課題を追究したり解決したりする活動を通して(中略)公民としての資質・能力の基礎を育成することを目指す」と記載されている。また、筆者の所属校でも中期学校経営方針の中期取組目標の一つに、「問題解決的な学習を通して生徒が主体的に学ぶ学習を推進し、学力の定着を図る」ことを掲げている。

では、具体的に問題解決的な学習をどのように進めれば生徒の資質・能力が伸び、その伸びを見取ることができるのだろうか。考えた結果、私は特に次の2点を重視して3年間の学びをデザインしてきた。

1点目は思考ツールの活用である。思考ツールを使うことで、情報や自分の考えを整理したり分析したりする力が高まるのではないかと考えた。そこで中学校1年次から段階的、継続的に思考ツールの活用を取り入れた学習を行ってきた。

2点目は複数回同じテーマで表現物を再構成することである。例えば問題解決的な学習においてはその学習の成果を新聞やスライド、ポスターなどにまとめて発表することになる。その際、他者の発表を聞いたり、自身の発表に対してアドバイスを受けたりすることで自分の考えが広がり深まる。そこで、もう一度同じ内容での表現の機会を設定することで、より効果的に資質・能力の伸びを図ることができるとともに、生徒自身も1回目と2回目の作品を見比べることで自身の伸びを実感できるのではないかと考えた。

本稿では、帝国書院『社会科 中学生の公民』(以下、教科書)の「第4部国際 第2節 地球的課題とその解決」について、「第5部 課題探究学習」を踏まえた学習展開の実践を紹介する。中学校社会科の最後の単元として上記の2点を踏まえた課題探究学習を行うことで、生徒が自身の資質・能力の伸びを実感できる学びを目指した。

2 単元計画と評価計画 

本単元の単元計画および評価規準は次の通りである。

3 具体的な授業の展開 

1.

第1時では、まず教科書第4部の冒頭(教科書p.182〜183)に掲載されている「学習の前に」のイラスト(図1)を活用し、次のような方法で地球的課題の把握および、探究したい分野の絞り込みを行った。

(1)地球的課題の把握(個人での学び)

図1に見られる地球的課題を、個人でロイロノートのシンキングツール「シート」に書き出す(図2)。

(2)他者参照

共有されたクラスメイトの「シート」を見て、さらに自分の「シート」に考えを追加する。このような他者参照の機会を設けることで、自分の考えを広げたり深めたりすることへつながる。その際、初めから他者の意見を参考にするのではなく個人での学びの時間を設けることも大切にしたい。

(3)地球的課題の分野別整理

次に、「シート」に書き出した地球的課題を「Xチャート」に分野別に整理する。なお、本実践では教科書のテーマに沿って、授業者より4つの分野を提示した(図3)。地球的課題は相互に関わり合っているものであり、きっぱり分けることができないことには留意したい。

(4)探究したい分野の決定

「Xチャート」で整理した地球的課題の中から、探究したい分野を決める。

なお、ここでは探究したい分野とは、「環境」「貧困」などを指し、探究課題とは「なぜ難民は増え続けているのか」などといった、実際に生徒が探究する課題のことを指している。

2.

第2〜4時では、次のような方法で探究したい分野の整理、より具体的な探究課題の決定、探究課題についての情報の収集・整理、発表のためのスライド作りを行った。

(1)探究したい分野の整理

絞った分野について、教科書や端末を使い、その背景や関連する事象などについて調べ、シンキングツール「ウェビング」に整理する(図4)。

(2)探究課題の決定

「ウェビング」での整理をもとに、より具体的な探究課題を決定する(表3)。探究課題は教科書p.217にも記載されている通り、抽象的になりすぎないように留意する。

(3)探究課題についての情報の収集・整理

設定した探究課題について、情報の収集を行う。その際、教科書やインターネットはさることながら学校図書館も十分に活用したい。私が所属する自治体では全ての中学校に学校司書が配置されている。そのため、本実践では事前に学校司書に授業の内容や生徒の探究課題を共有したことで、生徒がより効果的に図書館を活用することができた。

(4)発表用スライドの作成

本実践では、ロイロノートのテキストカードを使って「スライド」の作成を行った(図5)。

3.

第5時では、作成したスライドを使って、4〜5人のグループで発表を行った。1回目の発表を少人数にすることで、社会科に苦手意識をもつ生徒でも比較的自信をもって発表することができたように思う。また、作成したスライドを共有しておくことで、第6〜7時での再構成の際に他者のスライドを参照できるようにした。

4.

第6〜7時では、1回目の発表でグループのメンバーから出た質問や、アドバイスを参考に追加で情報を収集し、スライドの再構成を行った。

5.

第8時では、再構成したスライドを用いてクラス全員の前での発表を行った。生徒は、すでにグループでの発表を行っているため、大人数の前での発表も比較的落ち着いて臨めていたように思う。また、発表後に自分の作った1度目のスライドと、修正を加え再構成したスライドを見比べながら、振り返りを行った(図6)。

4 本実践の成果と課題 

本実践は、思考ツールの活用と、スライドの再構成による過程を通して、生徒が自身の資質・能力の伸びを実感できる学びを目指した。

まず、思考ツールの活用については、「シート」→「Xチャート」、「ウェビング」と、段階的に活用することで、情報を整理・分析する力を養い、探究課題を明確化できたのではないかと考える。

スライドの再構成については、生徒の振り返りにもあるように2度のスライド作りを通して自身の技能や思考の広がりを実感できた生徒が多くいたと考えられる。

なお、思考ツールの活用やスライド作成も、ノートやポスターもしくは画用紙などの紙媒体で行うことも可能である。しかしICTを使うことのメリットは再構成のしやすさにあることも併せて記しておきたい。

今後の課題は、限られた授業時間の中で生徒同士の相互助言の質をいかに高め、再構成の深さを担保するかという点にある。グループやクラスによっては、スライドへの質問やアドバイスが表面的なものにとどまり、深い学びへつながらない場合もある。そのような時に鍵となるのが授業者の問いかけであろう。課題探究学習を生徒に任せきりにせず、授業者自身も探究の姿勢を持ち続けることが深い学びに欠かせないものであると思う。