- 高等学校 日本史
<授業研究 日本史> 「ほかひびと」とは何者か -日本古代史から「歴史実践」を広げる授業づくり-
2026年度 後期号
◆授業研究 日本史
「ほかひびと」とは何者か
ー日本古代史から「歴史実践」を広げる授業づくりー

北海道高等学校遠隔授業配信センター 千葉 康平
1, はじめに
「日本史探究」で求められる資質・能力
本報告では、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)「日本史探究」で求められる資質・能力を明らかにし、それを踏まえた日本古代史の単元構成案と授業実践を提示する。
共通テスト「日本史探究」の分析をする上では、小川幸司氏が提唱する「歴史の六層構造」を用いる。これは、実証→解釈→批評→叙述→対話→創造と進む「歴史実践」のプロセスであり、歴史学習を通じて身に付ける資質・能力を端的に表している。この枠組みを基に、入試を分析する視座として筆者が読み替えを行ったのが 表1 であり、それに基づく分析結果が 表2 である。
大学入試センター試験(以下、センター試験)から、大学入学共通テスト試作問題(以下、試作問題)、2024〜2026年度までの共通テストを並べて比較した。
表1 「歴史の六層構造」を用いた判断基準
表2 「歴史の六層構造」に基づく共通テスト「日本史探究」の分析
分析の結果から共通テスト「日本史探究」について、以下のことを確認できる。
(1)試験では一貫して「歴史実証」の「事実探究」に関わる問題が最も多い。センター試験と比べると、「事実探究」のみにとどまる問題が減り、1つの設問でも複数の要素にまたがって出題がなされている(実証と解釈、解釈と批評など)。
(2)試作問題以降、「歴史実証」の「史資料検討」に関わる問題が増加している。その中では時代背景や史資料の性格と絡めて複数の要素を問う出題(組み合わせ形式の問題や4択でも①②と③④で聞くことの性質を変える問題が該当)が多い。また史資料にメモやまとめなどを添えることで、生徒の読解をサポートする工夫や、概念的に歴史事象を捉えることができるような工夫もされている。
(3)「歴史批評」に該当する、事象の画期性を答えさせる問題が2026年度共通テストでは増加している。
以上のことから、「歴史実証」としての「事実探究」や「史資料検討」をベースに置きつつ、それを「歴史解釈」や「歴史批評」につなげること、すなわち「歴史実践」のプロセスをたどることが、共通テストで求められる資質・能力を踏まえた「日本史探究」の授業と言えるだろう。
こうした「歴史実践」をたどる授業には、「現代的諸課題」を考える視座が欠かせないと考える。共通テスト「日本史探究」の設問では「現代的諸課題」に関わる設問は少なかったが、生徒自ら「歴史実践」のプロセスをたどり、それを広げていくためには、なぜ日本史を学ぶのか、自ら意味付けできる状況が必要である。「現代的諸課題」を出発点とする「日本史探究」の単元や授業を設計することで、生徒が「歴史実践」をたどる可能性が高まるのではないだろうか。こうした問題意識を踏まえて、「日本史探究」、特に日本古代史の単元構成を検討・提示する。
2, 「日本史探究」の「ねらい」
単元構成について
筆者は「日本史探究」を通じて考える「現代的諸課題」として差別と身分を取り上げ、それを考えるための授業を実施することを初回授業で生徒に共有している。差別と身分を取り上げる理由は二つある。
一つは北海道で暮らす中で感じた課題意識からである。筆者は、小さい頃、鬼ごっこで相手に触る時に「えった」と言っていた。なぜこの言葉を使っていたのか、理由ははっきりしないが、少なくとも「他者を傷つける言葉である」という意識は存在していなかった。またそれを周囲の人から注意されることもなかった。
なぜこのようなことが起きるのか。それは「歴史総合」で学習した「近代」と日本が接触し、「近代」が浸透する中で、前近代日本が抱えていた矛盾や差別の構造が見えづらくなっている、もしくは形を変えながら再生産されているからではないだろうか。この視点に立つならば、「日本史探究」では、古代→中世→近世へと前近代社会が展開する中、どのように身分や差別意識が作られ、変化していったのか、そうした前近代社会が、「近代」と接触する中でどう残存し、どう変化するか、これを単元の中にとり入れる必要があるだろう。
もう一つは、生徒に、他者を排除するのではなく、他者と共に社会を創る、という視点を身に付けてほしいからである。
筆者は現在、北海道高等学校遠隔授業配信センターに勤務し、札幌市から地方の1学年1クラスの高校(以下受信校)にオンライン授業を配信している。受信校では、生徒の全国募集を実施している高校も数多くあるが、その中で生徒がどう人間関係を形成していくかが課題になっている。生まれた時から高校まで一緒という生徒が多い中に、背景や前提が異なる生徒が飛び込んでくるわけである。そうした中で他者を排除せず、共に教室、学校、そして社会を創る存在としてどう関わるか、こうした視点こそ生徒にとって身近な「現代的諸課題」ではないだろうか。
このような視点から、日本古代史の単元を設計したのが 表3 である。前近代社会における「身分」「差別」の構造の出発点として日本古代史を位置付け、貴族たちの「ケガレ」という意識や『左経記』に見られる「河原の人」がなぜ登場してくるのか、単元全体で考察を行う形にした。この日本古代史の単元より今回は、「「ほかひびと」とは何者か」を取り上げ、授業展開を提示する。
表3 「ねらい」を踏まえた日本古代史の単元構成案
3, 「ねらい」を踏まえた授業実践
(1)実践の内容について
本実践は、実証→解釈→批評という「歴史実践」のプロセスを経ながら、最後に「歴史創造」を意識し「現代的諸課題」を考える授業を目指した。授業の中心となる「ほかひびと」とは「乞食者」「乞索者」として『続日本紀』や『万葉集』に登場する人々であり、芸能によって生活をする人々を指すと考えられている。こうした人々がなぜ登場するのか、原因を探る活動を通し、ルールが持つ課題について生徒と共に検討を行った。
(2)「歴史実証」:身近なルールから律令制へ
授業は身近なルールから話を始めた。なぜ授業中は座っているのか、なぜ制服を着ているのか、外出は何時まで許可されているのか、校則や生徒心得など身の回りには多くのルールがあり、その中で生活していることを確認した。
その上で、古代日本では「律令」というルールが導入され、国政運営が目指されることを確認した。令の運用状況を確認するため、『図説 日本史通覧』(以下、資料集)より「ヒストリースコープ」に掲載される官人2人の経歴と昇進状況( 図1 )から、①2人の昇進の仕方にはどんな違いがあるのか、②なぜそのような違いが生まれているのか、考察とペアでの確認を行った。そこでは「蔭位の制」を資料集から生徒が発見し、身分としての官人、その中での有位・無位の区別、有位の中にも貴族等の身分があることを確認していった。その後一般の人々はどうか、良民と賤民、五色の賤などを知識として共有した。
図1 ヒストリースコープ 律令体制の成立②
『図説 日本史通覧』p.64
こうした令の規定を前提とした上で、教員側から、史料上に「ほかひびと」という人々が現れることを提示した。生徒には、①「ほかひびと」はどのような身分に該当するか、② 図2 の中に3人の「ほかひびと」がいるとするとどの3人か、という2つの問いを投げかけた。その上で、本時の中心となる問いである「「ほかひびと」とは誰か・どのような人か」へと入っていった。
図2 ⑮「東西の市」より人々の活動を拡大。赤い丸で囲んでいる人々が「ほかひびと」と考えられる。
『図説 日本史通覧』p.68
(3)「歴史解釈」:「ほかひびと」とはどのような人か
「ほかひびと」について考察を深めるために、協働学習の一つである「DOUBLE-DOUBLE」を用いて活動を進めた。
エキスパート資料1は、「乞食」「物乞い」としての側面から、エキスパート資料2は、芸能という側面から作成し、読み取り自体は短く、一方で「ほかひびと」について多面的な解釈と議論ができるよう配置している。
生徒はエキスパート資料を読み取り、意見の共有をしながら、 図2 より3人の「ほかひびと」を理由と共に選択していった。「芸人」「乞食」「貧困に苦しむ人たち」などの見解を挙げながら、「祝い事などをして報酬をもらう人たちではないか」などの解釈を行っていった。


(4)「歴史批評」:なぜ「ほかひびと」が現れるのか
「ほかひびと」への「歴史解釈」を踏まえ、「歴史批評」として、律令の規定にはない「ほかひびと」がなぜ現れるのか、背景の考察を行った。最初に①どうして都に集まる人々が増えたのか、資料集の「税の負担と納入」( 図3 )から検討し、衛士(えじ)や仕丁(しちょう)などの向京上番(こうきょうじょうばん)する人々や、運脚(うんきゃく)という存在がいることに生徒は気付いていった。そして②なぜ都に来た人々の中で「ほかひびと」が現れるのか、という問いについて、 図3 における「自己負担」という言葉や『続日本紀』における運脚の負担に関する史料(和銅5(712)年10月乙丑条)から考察を行い、生徒たちはここで、律令というルールの中で「ほかひびと」が生まれていったこと、「ほかひびと」が現れた意義について考えていった。教員からは資料集p.63「律令体制の成立①」の「ヒストリースコープ」に紹介される「文物の儀、是に於て備れり」という一文を紹介し、『続日本紀』編さん者や古代国家にとっての律令制定の意味と自意識について補足を加えた。
図3 税の負担と納入
『図説 日本史通覧』p.66(下線は編集部)
(5)「歴史創造」:現代とつなげる問いの考察
最後に「歴史創造」へつなげるエッセンシャル・クエスチョン(以下EQ)として「なぜルールの設定により苦しむ人が生まれるのか」という問いを投げかけた。生徒からは次のような見解が出てきた。「ほかひびと」を通じて、「人の支配」「法の支配」という考え方について、考えるきっかけになったと言えるのではないだろうか。

4, おわりに
ここまで共通テスト「日本史探究」に求められる「歴史実践」のプロセスを踏まえ、「現代的諸課題」へつなげる授業実践として「ほかひびと」を取り上げた。
本来的には「ほかひびと」を通じ「芸能」が持つ多様な側面を掘り下げる方がスムーズな実践になる可能性はある。しかし「日本史探究」を「意味ある」科目へとするために、「現代」を考える日本史授業が必要なのではないだろうか。ご批判を賜ることができれば幸いである。
〈参考文献〉
・小川幸司(2021)「〈私たち〉の世界史へ」『岩波講座 世界歴史 第1巻 世界史とは何か』岩波書店
・島智彦、渡辺雄貴(2021)「協同学習技法「DOUBLE-DOUBLE」の提案と一考察」日本教育工学会研究報告集 第3号
・吉田晶(1989)「古代民衆の天皇観-『万葉集』などから-」歴史学研究会編『民衆文化と天皇』青木書店






