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<教育情報ナビゲート> 高等学校の先生方による座談会 新課程 大学入学共通テスト「歴史総合、日本史探究」を振り返る -求められる力とその育成-

2026年度 後期号

◆教育情報ナビゲート

高等学校の先生方による座談会

新課程 大学入学共通テスト「 歴史総合、日本史探究」を振り返る

-求められる力とその育成-

立命館守山中学校・高等学校 大橋 康一/静岡県立駿河総合高等学校 美那川 雄一/兵庫県立御影高等学校 金谷 蕗/帝国書院 岡安 直行

帝国書院は令和9年度より『新詳日本史探究』を発刊いたします。今回は歴史の先生方(いずれも帝国書院教科書の著者・編集協力者)にお集まりいただき、帝国書院日本史編集者とともに「新課程における日本史入試からみる求められる力とその育成」について話し合っていただきました。日本史入試で求められる力とはどのようなものなのか、その力を育成するためにはどのような授業を行っていけばいいのかなどについて、日々生徒と向き合う先生方ならではの視点で振り返っていただきました。

〈座談会は「教科書発行者行動規範」に則り行いました〉

*本コーナーでは「大学入学共通テスト」は「共通テスト」と略記いたしました。

1, 新課程における共通テストで注目した問題

―「歴史総合、日本史探究」の問題について、特に注目された問題とその理由をお聞かせください。

 金谷先生  令和8年度共通テスト第1問は、思考力に特化した問題だと思います。問5は、世界史と日本史の近現代史の知識、さらに江戸時代の知識も組み合わせないと解けない問題です。歴史総合としながらも日本史の通史に関する力も問うていると思います。また、第2問 問3は、弥生時代の漁業の網を例に遺物の使い方を推測させる問題です。近世の漁業などを組み合わせて考える必要があり、これもかなり思考力が問われていると思います。

 大橋先生  新課程における共通テストの問題の作られ方として、ほとんどの問題は資料読解と知識の両方を使う必要があると思いました。特に今年の問題で目立ったのは概念図が使われていることです。第2問では、問1に絵画資料、問2に模式図があります( 図1 )。漁村はどのように運営されているのかを、受験者各自が持っている知識と組み合わせながら解いていく問題です。また、第5問 問4( 図2 )では、城下町の構造の概念図が使われました。これは城下町の構造を理解していないと解けない問題です。このような問題で、新課程の「歴史総合、日本史探究」に問われている思考力がどんなものか、はっきり分かったように思いますね。

図1 令和8年度共通テスト本試「歴史総合、日本史探究」第2問 問1・問2

図2 令和8年度共通テスト本試「歴史総合、日本史探究」第5問 問4

 帝国書院  概念を理解することが求められていると思います。『新詳日本史探究』p.173「城下町の構造(姫路 の例)」( 図3 )のように、ある事物の構造を概念で理解するというのが肝要ではないでしょうか。

図3 城下町の構造(姫路の例)『新詳日本史探究』p.173 2

 大橋先生  概念図があると、その時代の町の構造と現代の町の構造が比較できるような問題を作りやすくなりますね。『新詳日本史探究』p.75の領域型荘園の模式図についても、世界史では中世ヨーロッパの村の構造を学習しますが、それと比べて日本はどうかという問題も作ることができます。ある構造を概念化した図を理解しておくことは非常に大事だと思います。

 美那川先生  概念図の良い点は、例えば日本のさまざまな地域で荘園制に近い土地の仕組みを抽象化することができ、その抽象的なものを理解しておけば、他のさまざまな地域を見た時に具体にできる。つまり抽象と具体の往還ができるかどうかも共通テストでは求められていると思います。個別の事象を全部知っている必要はなくて、まず一つのモデルを知って、それを個別の具体事象に転移して考えられるかどうかという力が求められていると感じました。さらに 図3 は、西国街道が通っていることで、交通の要衝に建っていることが分かります。周辺も入れることで当時の世界観を示す地図は大事です。

 帝国書院  今回の編集方針の一つは、地図を多く入れることでした。日本の歴史は、日本だけでなく東アジアやヨーロッパ、アメリカの影響を受けながら展開したということを普段から意識する必要があります。『新詳日本史探究』の地図は、日本だけの視点にならないよう、p.138「17世紀ごろの東アジア」のように必ず周辺の地域も入れるようにしています。「世界の中での日本」を理解することで、日本単体ではなく別の見方で歴史的な事象を読み解く力、思考力に結び付くと考えています。

 美那川先生  私は令和7年度共通テスト第4問 問4・5に注目しました。問4は、中世における戦国大名について、世界の中での位置付けが理解できているか。問5は、第4問A・Bのまとめの問題として、12世紀から15世紀後半までの武士について概念的に理解できているかを問うていて、非常に意味があると思いますね。問4についてはp.142「世界の中の日本 銀で結びつく16世紀の世界」が役立つのではないでしょうか。

―近年の入試において、注目されているテーマはありますか。

 金谷先生  東大をはじめ、私大も含めて全体的に女性史、アイヌ・北海道史、琉球・沖縄史に関する問題が非常に増えていますね。歴史総合の影響もあると思いますが、特に近現代以降、アイヌ・北海道史では北海道とロシアとの関係に関して出題されているものが多い印象です。

 大橋先生  令和8年度共通テスト第4問は、日野富子、八条院が扱われ、東大の入試問題第1問は、律令制下の女性の役割を扱っていて、今年は特に多いと感じました。

 美那川先生  今までは、京都や江戸を中心に歴史が語られてきましたが、周辺とされてきた沖縄や北海道それぞれを中心にした時、京都や江戸を中心にした語りでは見られない歴史が出てきました。女性史もそうで、これまで男性の歴史が中心だったけれど、女性を中心にした時に別の時代像や語りができるのではないでしょうか。

 帝国書院  『新詳日本史探究』を作る時、特に女性史、アイヌ・北海道史、琉球・沖縄史に関しては、特設コラム 深めるの項目を設けて、古代から現代までを通貫して変化で見ることができるように意識しました。全体の流れの中に位置付けることで、多面的・多角的に捉えられるようにしています。

2, 育成したい力と求められる授業とは?

―新課程で求められている力を付けるために、普段から授業で意識されていることはありますか。

 美那川先生  令和8年度共通テスト第4問 問2では、日野富子が出題されました。これまでは悪女のように語られていたとしても、問2ではそれに対する日野富子の評価の変化が取り上げられています。つまり、今までの語りをひっくり返す、別の語りもあり得ることが共通テストでは出題される傾向があると考えています。そのため授業では、別の見方をすれば別の語りもあり得るという、もう一つの視点をどれだけ引き出していくのかが重要だと考えます。私たちが何を語って何を語っていないのか、自覚的にデザインしながら歴史を学んでいくことが必要なのではないでしょうか。

 帝国書院  実は『新詳日本史探究』p.97の 歴史再考!コラムでは、日野富子と北条政子とどちらを扱うか迷いました。 歴史再考!では、日本史の通説に対して、いったん立ち止まって認識の揺さぶりをかけて、その人物や文化などの評価を捉え直すことで、歴史を多面的・多角的に考えることはどういうことかを、体験的に学べるようにしています。

 大橋先生  これまでの学習指導要領では、確定した事象や事物を理解することが求められていました。しかし今の学習指導要領の地歴・公民科の目的は、さまざまな社会的な見方・考え方を身に付けることです。ある事象や事物を確定したものとして教えるのではなく、さまざまな見方・考え方を働かせながら資料を読み解いて考えさせることが求められていると思いますね。

 帝国書院  教科書としては、人物の評価を資料から考えることは探究学習の観点からだけではなく、ジェンダーのテーマとしても意識しています。探究TRYは、資料を基に学習者自身で時代像を考えることで、多面的・多角的な見方につながるという構成となっています。探究学習の一例として、テーマ設定や問いの作り方、初見資料の扱い方の参考になるよう編集しました。

 金谷先生  私は「まず問いから始まって、仮説を立てて、検証していって、結論を出す」という一連の流れを必ず授業に取り入れています。その際、最初にできるだけ生徒にとって初見の資料を提示するように心がけています。資料集『図説 日本史通覧』のヒストリースコープをよく活用しますが、例えばp.48で憲法十七条の資料を読み解かせ、なぜ飛鳥時代に仏教が受容されているのかという問いを立てて、中国との関係の中で仏教の受容を理解していき、全体として飛鳥時代の外交や政治方針を理解する授業展開をとりました。根拠となる資料や事実があって結論に結び付くことをしっかり理解できるようになってほしいと思っています。それは日本史に限らず、さまざまなものの見方にも大事で、それがリテラシーや論理的思考力につながるのではないでしょうか。

3, 歴史の学習で生徒に身に付けてほしい力

―歴史の学習を通して、どのような力を生徒に身に付けてほしいとお考えですか。

 美那川先生  歴史教育の研究では歴史的思考力の分類が進んでいて、歴史の知識を現代的な問題を解決するのに生かすというアナロジー思考の発想があります。私はそれに加えて、歴史という実際には見ることも聞くこともできない社会的事象を理解する際に、自らがナラティブ(ある見方からの語り)を用いていることを自覚できる力を、生徒には身に付けてほしいと思っています。

 大橋先生  美那川先生のおっしゃる通りだと思います。物を作るのではなく知識をどう扱うかということが、これからの時代には大事になっていきます。生徒には根拠に基づいてさまざまな情報を扱える力を育みたいですね。

 金谷先生  私が授業で強く意識しているのは、生徒たちには、視野を広げて、異なる立場に立てば見方も考え方も全然違ってくるということをしっかり理解してほしいということです。歴史は、時代や地域などいろいろな立場からの視点を学ぶのに最適だと考えています。歴史の学習は、視座を変えて物事を見る、多面的・多角的な視点を養うという点において重要で、それがこれからの社会に必要な力だと考えています。

 帝国書院  日本史の教科書を作ると決まった時、世の中に「歴史=受験のための暗記学問」という捉え方がまだ残っており、そこをどう変えていくかを目標に企画の検討を重ねました。そうしたなか、共通テストが思考力や資料の読解力を問うものへと変化しているのであれば、そうした力を身に付けるのに適した教科書となるよう、先生方のご意見をうかがいながら、『新詳日本史探究』をしっかり育てていきたいと思っています。