- 中学校 公民
<やってみよう! 社会科でAL> 財政の学習を通して描く将来の日本の青写真
2026年度 後期号
◆やってみよう! 社会科でAL
財政の学習を通して描く将来の日本の青写真
兵庫県 加古川市立義務教育学校両荘みらい学園(後期課程) 教諭 安田 紫織
1 はじめに
中学生は「増税」という言葉に敏感である。消費税率の上昇、防衛費の増額や少子化対策に伴う国民の負担の増大などが話題に上ると、生徒たちは「増税反対!」「国民の負担を増やそうとする政治家は悪人だ」と、政権批判の嵐が巻き起こることがしばしばある。確かに、安易な増税には賛成できない。しかし、「増税=悪、減税=正義」のような二元論で税や財政の問題を捉えてよいのだろうか。財政の現状や少子高齢化など現代社会の特色を踏まえて考察してこそ、望ましい財政の在り方について判断できるのではないか、その問題提起として、本授業を構成した。
2 授業の構成とねらい
授業の導入として、帝国書院『社会科 中学生の公民』(以下、教科書)p.157「アクティビティに挑戦 救急サービスの有料化について考えよう」を取り上げ、次に関連するニュース動画を視聴させる。そして、身近な公共サービスおよび社会資本を想起させ、その維持は「税」という形で国民が負担するという財政の基本的な考え方について理解させ、充実した公共サービスや社会保障を維持していくための「受益と負担の均衡」という視点に気づかせる。その上で、複数の資料の読み取りを通して日本の財政の現状と課題を捉え、財政収支の均衡を図るにはどのような方策が必要なのか、自分が考える望ましい財政の在り方とは何か、「将来の納税者」として課題の解決に主体的に関わろうとする公民的資質を育むことが本授業のねらいである。生徒の思考を深める単元構成は次の表のとおりである。
3 授業の展開
【第1時】
生徒の思考を深めるには、多面的な読み取りが可能な資料を用い、答えが一つに定まらない非定型の問いを立てることが欠かせない。そこで用意したのが図1である。過去のデータと比較することで、社会保障費や公債金・国債費の増大など、日本の財政の経年変化に気づくだけでなく「1988年と比べ所得税や法人税の割合が減少しているのは、働き手が減って稼げないからではないか」など、既習事項と関連づけて考える生徒もおり、資料を精選することで、多様な思考が促される。
ここで「つまり、日本の財政はどのような状態であると言えるか?」と思考を統合するような問いを投げかける。「税収入だけでは足りず、借金をすることで成り立っている状態」「将来の世代に影響がありそう」など、重要なキーワードを焦点化し、解決すべき課題について整理していく。「物価高などもあるし、これから公債金が増えていくのではないか」など現在の社会情勢とリンクさせて発表する生徒も増え、活発な議論が始まる。
続いて、「今後どのようになると予想されるか」を追加資料を提示して考えさせた。使用したのは、①国の財政を家計に例えると(全国間税会総連合会「もっと知ろうもっと考えよう 国の財政と消費税の役割」より)、②財政法第4条、③「日本の人口構造の変化」(教科書p.10
)、④消費税減税すべきか「選択の夏」(日本経済新聞2025.7.8)の4つである。感情的に増税反対と言っていた生徒も、社会保障費の増大は避けられないこと、人口の減少が予想される中での減税の難しさに気づき、「これから日本はどうなるのだろう」と自然に次の課題を見据えて思考を継続している様子であった。授業の最後には「納税や今問題になっている情報を把握することが大事」「若い人も減税しろと言うからには、普段から税や国の財政に関心を持って、積極的に政治に参加しないといけない」など、財政や政治に関心を持ち、自分事として学ぼうとする姿勢が見られた。
【第2時】
第2時は、歳入・歳出に関わる課題を解決するための具体策について考えさせるところからスタートした(図2)。「社会保障費の削減」という意見に対し「弱者を切り捨てる考え方は問題なのでは?」という反対意見が挙がり、教室内がしばらく某討論番組のようになる一幕もあった。
これらの議論を踏まえた上で、教科書p.165「アクティビティに挑戦 給付(受益)と負担について考えよう」の思考ツールを活用し、生徒は自分の考えを座標上にプロットした(図3)。
結果は、ほぼ「負担拡大・給付拡大」と「負担縮小・給付縮小」に二分された。前者の判断の根拠は「リスクへの備え・国の将来への投資」、後者は「リスクへの備えは自己責任、お金の使い方の自由度を高める」という意見に包括された。大きい政府・小さい政府どちらを理想とするのか、思考の根拠を明確にし、自分が思い描く望ましい財政の在り方について判断していた。
4 おわりに
税は高いより安い方がいい。それは誰だってそうである。しかし、そのような理想論を乗り越え、どういう社会が望ましいのか、それをどう維持していくのか、そのためには何が必要なのか、社会全体に関わる思考を深め、今学習していることが自分にとってどのように関係するのか、主体的に考え続けられるような生徒を育成したい。




