• 中学校 歴史

<社会科研究最前線> 公文書館資料を活用した社会科授業 ―滋賀県立公文書館資料を例に ―

2025年度 後期号

◆社会科研究最前線

公文書館資料を活用した社会科授業

ー滋賀県立公文書館資料を例にー

三重大学大学院教育学研究科 准教授 久保田重幸

はじめに

授業で取り扱われる「資料」には、広い意味が含まれている。例えば、Ⓐ「生徒が歴史に関わる事象について考察したり、考察したことを表現したりする際の「よりどころ」として活用1」する場合、Ⓑ「歴史的な資料そのものが持つ価値や意味、資料や文化財の保存・保全・保護等の努力、それらへの興味や関心を高める2」ために活用する場合等が考えられる。特にⒷの場合には、「一次資料3を直接活用することが効果的である4」ことが示されている。確かに、私自身の指導経験を踏まえても、一次資料が生徒に与えるインパクトは大きく、歴史授業の際には「一次資料を活用したい」と考えることが多かった。ただ、学校教員が一次資料、とりわけ近現代に関わる一次資料を入手できる機会は限定的で、一次資料を活用した授業を計画しづらい面もある。

そこで、本稿では、滋賀県立公文書館(以下、滋賀公文書館)が主体となって、令和3~4年度に実施した、学校教育連携事業(公文書館所蔵資料を用いた学習指導案集作成、公開授業の実施等)について紹介する。特に、一次資料としての公文書館資料の活用方法や、公文書館資料を活用する際の配慮事項等について紹介したい。

1、2、4 藤野敦「新学習指導要領における公文書館等との連携について」『アーカイブズ』第72号、国立公文書館、2019年 https://www.archives.go.jp/publication/archives/no072/8866(2025年8月18日閲覧)

3 一次資料とは「対象とする出来事や現象の記録として、その出来事や現象が発生した時期に、直接的に作成・出版された資料」を指し、歴史研究においてはその証拠となる。

1 学習指導案作成上の3つの配慮

(1)対象とする教科等・校種の拡大

まず、本事業では、中学校の社会科(歴史的分野)および高校の地理歴史科における公文書館資料の活用を想定していたが、中学校・高校の社会科教員で構成される研究員から、「歴史授業以外での公文書館資料の活用も検討したい」との意見が出され、対象を総合的な学習の時間や小学校等に拡大した。2年間の事業を通して、以下の12本の指導案を作成した5。

5  滋賀県立公文書館ウェブサイト https://archives.pref.shiga.lg.jp/index.php/school(2025年8月18日閲覧)

(2)本時のねらいの達成につながる資料の選択

また、授業で活用する資料の選択については授業者の裁量を優先した。いうまでもなく、学校の授業は、各校で設定された教科等の目標や年間指導計画に基づいて実施されている。従って、授業で活用される資料もまた、教科等の目標や本時のねらいの達成につながるものでなければならない。「この資料が貴重で、面白いから…」の理由だけで資料活用することは控えたい。貴重な公文書館資料であっても、授業者自身が、その資料の活用が本時のねらいの達成につながるか否かを慎重に検討し、選択できるよう配慮した。

(3)児童生徒の発達段階に応じた資料の提供

さらに、公文書館資料活用の際には、その中に多様な資料が含まれていることにも留意する必要がある。例えば、滋賀公文書館には、近現代を中心に、特定歴史公文書(明治期~令和期)28,148冊、行政資料(県保管の行政刊行物や図書、写真類)681点等(いずれも令和5年度末時点)の大量の資料が保管されている。しかし、その中には現代語で書かれた読みやすい資料もあれば、旧字体やくずし字等を含む読みにくい資料(以下、難読資料)も含まれている。それだけに授業者には、「目の前の生徒の状況を踏まえ、多くの場合、それらを授業で活用できるように「加工」すること、すなわち、教材化することが求められ6」ている。例えば、難読資料を授業で活用する場合、児童生徒の発達段階に応じて以下の三つの段階が想定される。

本来、難読資料を読む力の育成は、社会科や総合的な学習の時間の目標には含まれていない。それだけに、授業者は児童生徒の発達段階を見極めながら、A~Cの資料を適切に提供する必要がある。今回の指導案作成の際にも、児童生徒の発達段階を踏まえて資料を提供することに留意した。

6 藤野敦「新学習指導要領における公文書館等との連携について」『アーカイブズ』第72号、国立公文書館、2019年 https://www.archives.go.jp/publication/archives/no072/8866(2025年8月18日閲覧)

2 公文書館資料を活用した中学校社会科(公民的分野)授業実践

本節では、作成した12本の指導案のうち、中学校社会科(公民的分野)の授業実践について紹介する。

(1)授業の概要

本授業は、中学校3年生(4学級、109名)を対象に、社会科(公民的分野)の授業として実施された。日本国憲法において社会権が保障されるようになった歴史的背景について、明治期の滋賀県における貧困対策を振り返らせながら生徒に考察させる授業であった。資料として、㋐「恤救規則」と㋑「貧困者の実態に関する下問奉答書」、㋒「近江療養院」(写真)の3点の滋賀公文書館資料が用いられた。㋐は明治期の貧困者保護に関わる国の施策を示す資料、㋑は大正期の貧困者の実態を示す資料、㋒は大正期に地域の有志が設立した結核療養施設の資料となっている。㋒については現在も本校区内に民間病院として存続し、生徒にとって身近な地域の歴史として適切であることから選択された。また、本授業で取り扱う貧困対策は社会権規定以前の地域住民の善意による福祉活動であり、その成果と課題について考察させる上で有効な資料となる。なお、㋐、㋑については生徒の発達段階を考慮し、A未加工資料(資料1)とC現代語訳資料(資料2)の両者を提供した。なお、現代語訳資料は滋賀公文書館職員が作成した。

実際の授業では、生徒が資料を手がかりに級友と相談しながら学習課題に向き合えるよう配慮した。授業者は、中学生の発達段階を考慮して、資料数を3点に絞り込んだり、㋐の中の「人民相互ノ情誼(人びとの相互の人情)」というキーワードに着目させたりする等して、考察しやすいよう配慮した。

(2)生徒の学びの状況

本授業では、多くの生徒が、提供された3資料に興味を示しながら、学習課題について級友とともに考えることができた。授業後に実施された生徒アンケート(資料3、回答数109名)では、質問1「公文書館資料は分かりやすかった」、質問2「公文書館資料を用いたことで今回の学習に興味を持った」に対して肯定的に回答した生徒(aおよびbの合計)が70%以上みられたことは一定の成果といえる。また、両数値の傾向が似ていることから、中学生段階では資料の分かりやすさが授業に対する興味・関心につながる可能性があることも重要な示唆となった。

また質問3「公文書館所蔵資料を利用して「良かったこと」について具体的に書いてください」では、以下の意見がみられた。

実際に書かれた文章だったので、昔の人の考え方やことば使いが分かり、おもしろかった/実際の資料を使うことによって歴史がわかりやすくまなべ、昔のことについてよくわかった/実際に書かれた資料を見たことで考えが深まった/「公文書館資料」は読みとくのが難しかったが、今まで遠い存在だと思っていた歴史がより身近に感じられて良かった/本物の文書をみることで自分で自分の解釈をすることができてよかった/昔の言葉を現代語やくするのが楽しかった。すごく50分が短く思えた/

「実際に書かれた」「本物の」等の記述から、生徒が一次資料の価値を感じ取り、授業への興味・関心を高めて理解や思考を深めていることがうかがえる。また、公文書館資料を読み解く作業を経験したことで、歴史の醍醐味を感じる生徒も少なからずみられた。

一方、質問1、2に対して、20%以上の生徒が否定的回答(cおよびdの合計)をしていることは、今後の課題となる。特に、質問3の「悪かったこと」として、以下の意見がみられた。

漢字の読み方、意味がわからないものが多かったので、読み方、意味を簡単に書いてほしい/昔の文章はわかりにくい所もあったし、たとえ読めたとしても現代と意味がちがったりして勉強を進めにくい/資料の中身が難しくてあまりくわしくしることができなかったのがよくなかった/

今後は、現代語訳資料にもふりがなや注釈を加える等、全ての生徒が授業参加できるきめ細かな配慮が必要となる。

おわりに

今回紹介した事例は、あくまで滋賀公文書館による一事例に過ぎない。国立公文書館ウェブサイトには、「都道府県」44館、「政令市」11館、「市区町」37館の公文書館等がそれぞれ掲載されており7、その中には、埼玉県や福井県等のように、公文書館資料の授業活用についてウェブサイトを通じて発信している館も少なくない。各地域の公文書館等にとっては、公文書館資料の授業活用や地域活用は重要なミッションとなっているだけに、読者の皆さんの側から、授業活用等について公文書館等に直接お尋ねになると、価値ある公文書館資料と巡り合えるかもしれない。

7  国立公文書館ウェブサイト https://www.archives.go.jp/links/(2025年8月18日閲覧)