- 中学校 公民
<授業研究 公民> 暮らしのなかから憲法との関わりを、具体的に見つけよう
2025年度 後期号
◆授業研究 公民
暮らしのなかから憲法との関わりを、具体的に見つけよう
長野県 高森町立高森中学校 教諭 篠原 岳成
1 はじめに
人口減少や少子高齢化による労働者不足や、働き方改革によりトラックやバスの運転手が不足する「2024年問題」が大きな課題となっている。高森町が位置する長野県下伊那郡(
)でも、地域の商店の閉店や公共バスの減便など、“ひと” や“もの” の移動に課題が生じている。『社会科 中学生の公民』(以下、教科書)のp.166~167では、このような課題について「対立と合意」、「効率と公正」の見方・考え方で取り上げている。しかし本稿では、住民が抱く「移動して○○したい」という思い、例えば「バスに乗って高校に通いたい」という思いは、日本国憲法が保障する基本的人権(憲法13条の幸福追求権)につながっているのではないかと考えた。そこで教科書のp.30~31「学習の前に暮らしのなかから憲法との関わりを探してみよう」について、生活の中から見いだされる日本国憲法が保障する自由や平等といった基本的人権の具体の姿や、その権利を保障するために自治体がどのような思いで政策を実施しているのかを、生徒が実感を持って理解することを願って単元を構想した。
なお、本単元は、私が所属する信州社会科教育研究会下伊那支部で協働開発したものである。授業は下伊那郡阿南町の中学校で実践した。
2 単元設定の理由と単元展開
本単元で扱った地域素材「南部公共バス」とは、売木村から、阿南町、泰阜村、下條村を通り、飯田市に繋がる路線バスである。かつては民間のA 社が路線バスを運行していたが、2010年に自主路線を全て廃止したことから、5町村(上記4町村と天龍村)が集まる下伊那南部総合事務組合が、B社に運行委託するという形で誕生した。5町村で共同運営を行うという点は効率的であるが、必要経費における運賃収入は少なく、赤字分は国からの補助金、そして大半は5町村から出し合っており、路線の大半の距離を占める阿南町が多くを負担しているというのが現状である。
運賃収入で必要経費を賄えていない(=赤字)のに、南部公共バスを運営し続ける理由とは何か。この単元を貫く問いを基本的人権の視点から追究することで、単に住民が困るからという考え方ではなく、日本国憲法が人々の自由や権利を保障しており、その権利を具体化し、地域住民の思いや願いを叶えるための施策として自治体が運営していることを、生徒が実感を持って理解することにつながると考えた。また、仲間とこれまでの学習で得た情報や住民の願いをどのような権利が保障しているのかについて考えたことを互いに共有したい。その活動を通して、住民の自由・権利と、国や自治体の義務や公共の福祉との関わりを関連付けて、仲間の考えを生かした単元のねらいに対する考察ができると考えた。表1は単元展開である。
3 授業の展開ー主体的に憲法と権利の関わりを調べるー
第1時、南部公共バスについての概要を把握した後に、運営費用と運賃収入の資料を提示した。すると、多くの生徒から「大赤字じゃん」という言葉が得られた。そこで、単元を貫く問い「南部公共バスは赤字なのに、どうして運営し続けているのだろう」を設定した。単元を貫く問いに対してAさんは、「南部公共バスの少ない利用者の中には、バスがなくなると学校に行けなかったり、買い物ができなくなったり、生活に困ってしまう人がいるから」という、高校生の通学や買い物客の存在に注目し、予想を立てた。
その後、生徒が「バスに乗れる権利が誰にあるんだろう」と声を発したことから、生徒の間で話題になった権利について取り上げ、教師から「みんなはどのような権利を持っているのか」と問いかけ、基本的人権の学習に入っていった。生徒たちと共に、今までの人権教育での内容を振り返ったり、教科書を用いて基本的人権の概要を確認したりした後に、「自分の予想を根拠付ける権利を探してみよう」と学習課題を据え、教室前に置かれた5種類のプリントから自分の予想した内容に近いプリントを選び、個人追究を開始した。下記はAさんの振り返り①である。
Aさんの振り返り①
社会権の面から考えると、高校生には教育を受ける権利があるため、高校に行ったり帰ってきたりする権利もある。また、高齢者は、健康で文化的な最低限度の生活が保障されているため、買い出しや旅などに行くことができる権利もある。その他の人にも、生活していく上でしなければいけないことは自由にできる権利があるため、南部公共バスは運営している。
こうした調べ学習を進める中で、「実際に乗ってみたい」、「職員や乗客の人に話を聞いてみたい」という声が上がってきたことから、第7時には実際に乗ったり話を聞いたりする時間を設定した。この時間、Aさんは職員の人に下記のような質問をした。
① どのバス停がよく乗車したり降車したりする人が多いですか?
②利用客はどれくらいの年齢の人が多いですか?
③運営をするときに工夫をしていることはありますか?
④ 今と昔で変わったことはありますか?(町のバス事情について)
⑤運転している方はどんな方ですか?
⑥運転手の方々は他に何か仕事をしているんですか?
⑦バスの運営で一番大変なことはなんですか?
そして、乗車体験や職員の方との意見交換を終えた後に、振り返り②をまとめた。
Aさんの振り返り②
南部公共バスの主な運営理由は、車を運転することができない高校生の登下校や高齢者の通院のためである。また、送迎してもらえないときや遠くに行くときなどに便利なので、普段はあまり南部公共バスを利用しない人も利用していた。このことから、南部公共バスは赤字でも運転を続けている。
4 授業の展開ー共有を通して学習内容をまとめるー
「権利の学習や乗車体験、職員・乗客の方の話から分かったことを基にして、単元を貫く問いの答えをつくろう」と生徒に呼びかけ、まとめを作成した。その時、教師からはこれまでどのような情報や人と出会ってきたのかを整理した資料を用意した。また、生徒には「まとめる前に、自分が得てきた情報を、思考ツールを使って整理しよう」と促し、生徒自身が思考ツールを選んだ。その中でAさんは図2、3のようにまとめた。
その後、導き出した生徒それぞれの自分なりのまとめを共有し、自分のまとめをさらに深いものにする時間をとった。この中でAさんは、仲間から「幸福追求権」という情報を得た。そして最終的なまとめとして、振り返り③のようにまとめた。
Aさんの振り返り③
南部公共バスは、利用者の減少や運転手の確保が難しいという課題がある。しかし、全員が「幸福追求権」や「生存権」を持っているため、地方自治体として保障しなければならない。そして、持続可能なバスの運営をするために、主な利用者である高校生や高齢者の意見を取り入れつつ、アプリやGoogleマップと対応させ、より良いバスの運営を目指している。(下線部分はAさんが共有を通して仲間から得た情報・考え)
Aさんは、自分の予想を検証するために追究していく中で、「高校生や買い物客が困るから」という表面的な考えから、さまざまな権利を知ったり、職員や乗客と触れ合ったり、仲間と調べたことを共有したりしながら「幸福追求権」の具体の姿を多面的・多角的に追究し、考えを深めていった。また、公共バスの課題を知り、自治体の動きについて興味を抱いて調査を進める中で、地方自治体が公共バスを通して、人々の自由や権利を守る義務があるということまで学びを深める姿が見られた。
5 評価について
本単元の目標を、図4のように生徒が授業で学んだことや振り返りを記入するスプレッドシートに提示した。単元の学習が進む中で、生徒がすぐに目標を確認しながら、授業に臨むことができるようにした。また、教師は、生徒のワークシートやスプレッドシート、ロイロノートの記述を単元の目標に照らし合わせて評価し、個々の生徒に対して支援・指導をできるようにした。
さらに、主体的に学習に取り組む態度を評価するために、図5のように、それぞれの授業を終えた時点での単元を貫く問いに対する考えや今日の授業の自己分析・自己評価をスプレッドシートに記入できるようにした。そこには、生徒が自らの学習を振り返る中で、次の授業で学びたいことを記入する姿など、自らの学びを調整する姿が見られた。
6 終わりに
権利・取材・体験の三つの面から考えると、バスが完全に運行停止してしまったら生活に困る人が出てきてしまう。住民全員の利便性を保障するため、どれだけ赤字でも続けなければいけない。
上の感想は、Aさんが地域公共バスに関わる権利について、教科書で調べたり実際に乗車して感じたりしたことをロイロノートにまとめたものである。ここに記されているように地方自治体は、地域住民の暮らしやすさを保持し、住民の人権を守るために、公共バスの運営に税金を使うべきという考えもある。その一方で公共バスを利用せず、その恩恵を受けない住民もいる中で、公共バスの運営に多額の税金を使うことについて、公平性の観点から疑問を抱く人もいる。このような視点を、教科書p.166~167「アクティビティに挑戦 赤字バス路線に税金を使うべきか?」の議論を生徒が行う際に与えるならば、「対立から合意」に向けて、「効率と公正」の見方・考え方を働かせて課題点と解決策をより具体的に考えることができるようになるのではないかと考える。






