• 中学校 歴史

<授業研究 歴史> 人物の立場でより良い選択肢を考える授業 ―19世紀に264年も続いた江戸幕府が滅亡したのはなぜか―

2025年度 後期号

◆授業研究 歴史

人物の立場でより良い選択肢を考える授業

-19世紀に264年も続いた江戸幕府が滅亡したのはなぜかー

静岡市立清水第三中学校 教諭 川上 一也

1 はじめに

江戸幕府の滅亡について授業で扱うに当たり、令和7年度版『社会科 中学生の歴史』(以下、教科書)p.176~183第2節「開国と幕府の終わり」と、次の単元の第3節「明治政府による近代化の始まり」とのつながりを意識した授業計画を立てた。なぜなら、国内の政治的な対立や経済的な混乱を経験した幕末の時期は、日本が近代化を意識した時期と深く関連するからである。そして、授業では幕府滅亡の理由を直接問うのではなく、「幕府滅亡につながった中心人物はだれであったか」という取り組みやすい課題を立て、滅亡の要因を人物と関連付けて説明することができるようにした。さらに、「あなたならどの選択肢を選ぶか」という問い方をすることで、より主体的に歴史的事象を捉えながら、課題の追究ができるのではないかと考えた。

2 近現代史の授業の課題

(1)主観的に歴史的事象を判断してしまう

歴史の授業では、現代の見方や考え方で歴史的事象を判断して、当時の判断が誤っていたという結論に至ることがある。例えば、「外国と友好関係を結ぶことが正しい」や、「自由で平等な話し合いが最善の方法である」などである。そうなると、その時代の背景や社会情勢まで考察したことにはならず、客観的な見方や考え方が困難になってしまう。特に、近現代史では戦争を扱う単元が多く、価値判断を伴う課題が多いため客観的な視点がより必要になる。

(2)考えている立場(視点)が意識されない

歴史的事象を考えるとき、無意識に特定の立場を想定して考えていることがある。同じ歴史的事象でも、立場によっては捉え方が異なる場合もある。特に近代以降は、政府の動きに対する民衆に関する記述が増えるが、その民衆も地主や小作人、資本家や労働者などに立場が細分化していくので、どの立場(視点)で見ているのかを意識しておく必要がある。また、視点を明確にしておかないと、話し合う場面で話がかみ合わないことがある。

3 課題解決のための手だて

(1)単元の最初に地図と年表を関係付ける

学習指導要領では、「「開国とその影響」については、欧米諸国のアジア進出と関連付けて取り扱うようにすること。」とある。さらに、「「日清・日露戦争」については、この頃の大陸との関係を踏まえて取り扱うようにすること。「条約改正」については、当時の国内の社会状況や国際情勢との関わりを踏まえて」とあり、日本の動きを欧米諸国や東アジアの動きと関連付けて俯瞰することが求められている。これは、歴史的事象をより多面的・多角的に理解するためである。「開国と幕府の終わり」は、そのような俯瞰的な理解を初めて必要とされる単元である。単元の最初に、教科書p.172「19世紀ごろの世界」と幕末の年表を使い、世界の動きが日本の動きに影響を与えていることを意識させる活動を導入したい。

(2)思考ツールで立場(視点)を可視化

教科書p.176のQRコードを読み込むと「思考ツール・白地図」というタブがあり、複数の思考ツールとその使用方法が動画で解説され、ワークシートも付属している。生徒に「どの立場で思考しているか」を意識させるツールとして有効なのは、座標軸、Xチャート、Yチャートなどである。これらのツールは図として整理できるので、生徒が視覚的に自分の考えの相対的な位置を把握することができる。また、軸の要素を工夫すれば、自分と他人の考えの関係をはっきりと意識できるようになり、同じ意見や違う意見の人と交流しやすくなる。さらに、ICTを活用してツールで意見を共有すれば、個人と全体で思考の経過を確認することもできる。

4 単元目標と学習計画

(1)「単元を貫く学習問題」と「単元目標」

教科書p.176では「2節の問い」として「欧米諸国が来航するなかで、日本の社会はどのように変化したのだろうか。」とあるが、筆者の授業では、下記の課題を設定した。

幕府滅亡につながった中心人物は? 幕府の滅亡に一番影響を与えた人物を追え!~なぜ、江戸幕府はこの時期に滅びてしまったのだろう?~

単元の目標は、評価の観点別に整理し、以下の通りとした。

① 欧米諸国の動きが日本の開国に大きな影響を与え、幕府政治の行き詰まりの一因になったことを攘夷や倒幕といったさまざまな考えとともに理解する。(知識・理解)

② 江戸幕府が滅亡した原因を開国から幕府の滅亡までの出来事と関係付けて説明することができる。(思考・判断・表現)

③ 対話を通して得た視点をもとに自分の考えを再構成し、幕府滅亡につながった中心人物を追究しようとする。(主体的に学習に取り組む態度)

(2)学習計画

(3)学習課題と授業のポイント

①1時間目

〇 江戸時代の終わりごろの世界はどのような様子だったのだろうか?

・( 世界地図の見どころとして)どのような国が世界に領土を広げていったのか。それらの国が目指した場所はどこか。矢印の方向に注目し西アジアと中国に矢印が集まっていることに注目させる。

・なぜ、ヨーロッパ諸国は中国に来たのか。

・キーワードを年代順に並べて、巻末年表と見比べさせる。

次に世界地図と年表を見比べて、世界の動きと日本の動きの関係性を押さえ、この時期に日本が欧米諸国の動きに影響を受けたことに気づかせる。この時に、開国から幕府の滅亡までの時間に注目させ、アヘン戦争を例に、欧米諸国のアジア進出について三角貿易をもとに説明する。教科書に南京条約の記述があるので、その追加条約の条文を紹介する。

〈南京条約の追加条約(虎門寨追加条約)〉

・ イギリス人が中国で起こした犯罪は、イギリス人が裁判をする。

・中国が、自主的に関税をかけることを認めない。

・ 中国が、他国と結んだ条約が、イギリスと結んだものより有利な場合は、無条件でその内容をイギリスにも認める。

最後に、この単元では、幕府の滅亡につながった中心人物を追及していくことを提示する。

②2時間目

〇黒船来航!日本は開国すべきか?

・ ①日米和親条約第9条、②日米修好通商条約第4条、③同条約第6条から一つ選ばせ、日米どちらに有利な条約か、その理由を説明させる。

②の関税自主主権がないことを選ぶ生徒は少ない。話し合いという形式に平和的な印象を持ってしまうことが、関税率が引き下げられて輸入超過となり、幕末の経済の混乱を招いたことを理解するのを難しくしている理由である。経済の混乱は幕府の滅亡の要因の一つなので、関税自主権がない不利な立場は押さえたい。

次に、「不平等条約をもとに開国か鎖国か」という課題を設定して意見交換を行う。開国を選択する生徒が多く、その根拠は「外国と友好関係を築き、進んだ技術を取り入れていく。」や「開国せざるを得ない状況であり、戦争になって植民地になってからでは遅い。」であった。

③3時間目

「物価凧揚げ絵」は生徒が興味深く読み取ろうとする。この時代の米や菜種油は庶民にとってどのような存在か教科書p.181「5開港後の物価の変化」のグラフとともに考えさせたい。

〇幕府最後の政治改革。改革で優先することは?

・「 幕府は何をしていたか」という課題に対して天保の改革と諸藩の改革を比較する。教科書p.178~179の記述を手がかりに、改革に成功した藩の共通点と幕府の政策を対比させ、幕府の政策が失敗した理由を考える。

(生徒の記述)

幕府は今までの改革と同じようなことをしているけど、諸藩は軍備の近代化や、商品経済にしっかり対応できている。それができたのは、低い身分でも有能な人物を登用したからだと思います。

④4時間目

〇日本存続の危機。最適な選択肢は?

・ 尊王攘夷から倒幕への流れを欧米諸国の動きと合わせて説明する。この時期の四つの考えを紹介し、自分だったらどの考えを選択するのか一つ選ばせ、その理由を記述させる。四つの考えとは①幕府中心に、朝廷の権威を借りて将軍が政治を続ける。②大名と将軍が話し合う新しい政治の仕組みをつくる。③天皇を中心に外国勢力を排除し、天皇が政治を行う。④将軍を廃止し、天皇中心の政治を復活させる。

ここでは、思考ツール「座標軸」を使い、自分と他人の考えの関係を把握する。黒板に座標軸を書いて自分の考えのところにネームプレートを貼り、その座標をもとに意見交換を行う。

⑤5時間目

〇江戸幕府の滅亡。滅亡につながった中心人物は?

・ 前時の選択肢に近い考えの人物を紹介し、その人物の動きを調べる。教科書p.183の写真を使い、坂本龍馬、木戸孝允、西郷隆盛・大久保利通、岩倉具視をとりあげ、龍馬については、「船中八策」も紹介する。この資料は薩長同盟の重要性と龍馬の考えが後の明治政府の方針の中にも読み取れることから注目させたい。

調べたことをもとに幕府滅亡に深く関係した人物を選び、理由を挙げて意見交換する。その後再び「滅亡につながった中心人物は?」という質問をして一人選ばせる。

⑥6時間目

〇 19世紀に264年も続いた江戸幕府が滅亡したのはなぜか?

・ この時期に幕府が滅亡した理由を200字程度で記述させ、意見交換をする。

(生徒の記述)

日米修好通商条約は世界中で植民地支配や戦争が起こっている時代の中でa外国との戦いを逃れようと結ぶしかなかった。貿易が始まり、品不足、物価上昇で人々の生活が苦しくなった。b幕府は外国との関係を悪くしないよう、庶民を犠牲にしてまで開国を続けた。

もともと黒船が来航し、開国したことで混乱が起きてしまったので真犯人はペリーの可能性もあると思います。

〈評価〉

生徒の記述をもとに単元目標②と③の観点について評価する。

〇思考・判断・表現

既習の歴史的事象を関連づけ、傍線部a「結ぶしかなかった。」、傍線部b「関係を悪くしないよう」と判断している。

〇主体的に学習に取り組む態度

毎時の振り返りと照らし合わせて評価する。波線部では、新しい人物を挙げている。「真犯人」を突き止める思考が継続していたことがうかがえる。この記述とは別に①「単元を通して幕府滅亡につながった中心人物として考えた人物はどのように変化しましたか。また、それはなぜですか。」、②「滅亡の原因をより詳しく知るためにどのようなことをさらに追究するといいと思いますか。」と聞くこともできる。

5 おわりに

本実践では、中学校学習指導要領社会科2内容B(3)ア(エ)にある「社会の変動や欧米諸国の接近、幕府の政治改革、新しい学問・思想の動きなど」を踏まえ、選択肢を選んだり、優先順位を考えたりできる課題をもうけるよう心掛けた。また、単元全体を通して、「幕府滅亡につながった中心人物」の追究を通して「この時期に江戸幕府が滅んだ理由」の説明へと収束させた。そうすることで、子どもたちの意欲を下げずに、対話的な学びを通して身に付けるべき事項を概念的に理解できるようになったと考える。今後は、「選択肢を選ぶことから作ることへ」ステップアップさせ、また、子どもたちが作った選択肢を「なぜ、当時の為政者は選択しなかったのか、できなかったのか」まで考えを深める学習へと発展させていきたい。