• 中学校 地理

<授業を深める社会科教室> 人口大国インドの成長と課題

2025年度 後期号

◆授業を深める社会科教室

人口大国インドの成長と課題

大阪公立大学大学院経営学研究科 准教授 西尾 圭一郎

1 インドが注目される理由

近年、インドに関する政治的・経済的ニュースが取り上げられることが多くなった。経済成長の著しい新興国としての注目に加え、2000年代であればBRICs、2020年代であればグローバルサウスという形でも言及される。

その注目の源泉の一つは世界最大となった人口である。国連の推計では、2023年に中国を抜いて1 位になり、その後も増加を続け、2024年時点で約14億3800万人となっている。平均年齢も若く、つぼ型やつりがね型となっている先進国や中国と異なり、人口ピラミッドは富士山型となっている(図)。そしてインドは多くの人口を抱えながらも貧困削減が進んでおり、成長性、将来性も高い。

IMFによると2024年のインドの名目GDPは世界第5位の約3兆9091億ドルで、第4位の日本(約4兆262億ドル)との差は僅差である。そして人口ピラミッドからも分かる通りこの成長は当分の間続くと予想されている。

(出所)国連ウェブページによる https://population.un.org/wpp/(United Nations,Department of Economic and SocialAffairs, Population Division)人口推計のデータ。2024年7月の推計値。

図 インドと中国の人口ピラミッド(2024年)

2 注目すべきデジタル化

成長著しいインドであるが、特に注目すべき変化としてデジタル化が挙げられる。インドは2014年から「デジタル・インディア」政策を推進している。これによってインターネットの利用が急速に進んだ。2014年には約3億だったインターネット加入者数は、2023年末には9億を超えるようになった。これは初期投資が大きな固定電話回線ではなく、モバイル通信が普及した時代だからこそ可能なことであり、段階を踏まず一足飛びに成長することから「かえる跳び型発展」ともいわれる。

デジタル化は煩雑な行政サービスの効率化・透明化、ビジネス環境の改善、国民のエンパワメントといった、さまざまなことを可能にした。また、デジタル環境の整備は、アーダール(Aadhaar)といわれる国民ID制度の普及も可能にした。そして、モバイル網と国民IDの普及が進むなか、国民の銀行口座取得も推進された。インドでは銀行口座を持たず、金融サービスから排除された多くの貧困層がいたが、国民IDの普及によって、本人確認が容易になり、金融サービスを利用できる人が急増した。貧困の解消に金融サービスは重要な役割を果たす。貧困層に無担保・低利子で少額融資などを提供するマイクロファイナンス(マイクロクレジット)もその一つである。さらに、そのような状況下でQRコード決済をはじめとするデジタル化された金融サービス(フィンテック)が登場し、急速なイノベーションによって社会課題の解決が試みられる、ある意味では最先端の国となったのである。

3 国際社会とインド

こうした経済成長によって、インドは世界的な価値連鎖(グローバル・バリュー・チェーン:GVC)に組み込まれつつある。特にICTなどのサービスのアウトソーシング先や製薬事業における原薬製造拠点として注目を集めており、投資先としても存在感を増しつつある。

その要因として、同じ人口大国である中国と異なり、民主主義国家であるということが大きい。それ故、経済面だけでなく安全保障や国際政治でも各国との関係は強化され、それが日米豪印戦略対話(QUAD)という枠組みや「自由で開かれたインド太平洋」戦略へとつながることになる。また、こうした立ち位置でありつつ新興国であるという立場から、南側諸国の利害代表者というポジションにもあり、グローバルサウスの重要なプレーヤーともなっているのである。

4 インドの課題と今後

これまでの記述からはインドの輝かしい姿が想像されるが、その一方で課題もある。経済面でいうと、国の経済規模は大きくなったものの生活水準は十分ではないことである。実際2023年にはバングラデシュの方が一人当たりGDPは大きかった。

もちろん、インドの経済成長は絶対的貧困にある人の数を減らすことには成功している。2004年の段階では、貧困率(一日2.15ドル以下で生活する人の比率)は40.6%であったのが2021年には12.9%にまで低下している。その点は非常に素晴らしいが、その一方で相対的貧困も高まっている。インドの経済成長を語る際、ICTや医薬品といった産業の成長が注目されることが多い。しかし、こうした産業は雇用吸収力が弱い。労働者の雇用につながりやすい製造業はGDPの2割未満のシェアでしかない。その結果が所得の不平等である。また、高成長の裏側で大気汚染などの環境悪化も生じている。

そして女性の人権に関する重大な懸念もまだまだ残されている。就職においても女性の地位は低く、学歴や識字率などにも差がある。結果として、人口ピラミッドの左右の幅に差が出るような産み分けにもつながっている。さらに、宗教による差別も大きい。これまでのモディ政権ではヒンドゥー至上主義的な側面がみられ、ムスリムへの弾圧も生じている。このように人権面での課題もまだまだ多い。

もっとも、課題解決への動きも進んでいる。雇用を生むために製造業重視の政策が採られたほか、2024年の選挙では、モディ率いる与党「インド人民党」(BJP)は過半数を取れず連立政権となり、社会的協調や失業対策などがとられていくと予想される。このように、緩やかな改善が続く限り、インドの成長は長期的に続く。急進的でありつつ、緩やかな発展。それがインドの特徴といえるだろう。

5 インドを題材にした授業では

こういったことを踏まえ、地理であれば産業の成長を取り上げる際にはGVCの観点、つまりグローバルな生産のアウトソーシングと世界経済の一体化の中での経済成長であることを意識してほしい。単に人口が多いというだけでは世界経済における重要性は伝わりにくい。日本の自動車産業や二輪産業もインドに進出しているし、ICT産業は国を超えて簡単にサービスを届けることができる。スマートフォンのアプリや動画配信サービスなど、身近なサービスの国際化から、その発展を知る意義を認識させたい。

また、地理でそうしたことを取り扱えば、公民でグローバル化の中での発展途上国の問題を扱う重要性はより際立つ。国家間の格差(南北問題、南南問題)や発展途上国内の格差、貧困は、発展途上国の不安定性を高め、ひいては世界の不安定性につながる。そうした国際社会を広く見る視座を育ててもらえたら幸いである。