- 中学校 公民
<授業研究 公民> 地方公共団体のしくみから民主主義を問う
2026年度 前期号
◆授業研究 公民
地方公共団体のしくみから民主主義を問う
沖縄県 公立中学校 教諭
1 はじめに
昨今、地方自治に関する時事問題がニュースでひん繁に取り上げられる中、本当に地方自治は「民主主義の学校」なのかという問いかけから「地方公共団体のしくみと住民参加」の単元をスタートしたい。
ここ1、2年でも、首長の不信任決議、議会の解散や、特色ある条例の施行など、地方自治に関するニュースが多く取り上げられた。こうした出来事を契機に、二元代表制のメリット・課題を学びの起点とし、地方自治のしくみについて理解させたい。また、最近施行された愛知県豊明(とよあけ)市のスマホ使用条例や香川県ネット・ゲーム依存症対策条例など、中学生にとって自分ごととして捉えられるような条例を事例に条例について学び、最後に自分たちの地域をよくするためにどのような条例があるとよいか考える授業を紹介したい。
2 授業実践
(1)「二元代表制」のメリット・課題
授業では、導入として『社会科 中学生の公民』(以下、教科書)で既習のp.91「
衆議院で指名される首相と議院内閣制のしくみ」とp.102「
地方自治のしくみ」(図1)を見比べ、どこが違うか生徒に尋ね、国政は国民の選挙で国会議員のみを選出するが、地方議会の議員と執行機関(首長)は、住民の直接「選挙」で選ばれることを確認する。次に「二元代表制」のメリット・課題について各種資料を使って調べさせる。以下は、生徒が調べた結果をまとめたものである。
<メリット>
首長は政策決定、執行、提案などを、議会は条例の制定、予算の議決などを行い、互いを監視し合いチェックし合いながら協力することでより良い自治運営を目指すことができる。
<課題>
①首長と議会の対立で、重要政策の決定が遅れたり、予算が否決されたりするなど政策の停滞の可能性がある。対立が続くと住民が必要とするサービスが提供されにくくなる恐れがある。
②首長が圧倒的な支持を得ている場合、議会が首長の提案をそのまま認めてしまう傾向が見られ、議会の監視機能の形骸化が生じる可能性がある。
③政策の意見対立を想定した制度の趣旨を逸脱し、首長の住民の信頼を失わせるような行動による「不信任決議」が可決されても、首長が議会解散を選択し、議員選挙や首長選挙(自動失職の場合)の2つの選挙を実施するケースが起こり、選挙費用の側面からも課題がある。
課題①~③のような状態は、発生することもあるが、その解決の過程こそが大事だともいえる。
次に地方自治では、議会には、首長の不信任決議、首長には、議会の解散、住民には直接請求権や住民投票がある。それについて見ていく。
(2)「不信任決議」と「解散」
地方自治体の「不信任決議」は、議会が首長に対して不信任の意思を示す重要な手段であり、首長の行為や態度を問題視した場合の監視機能として効果がある。その反面、不信任決議によって失職した首長が、その後の出直し選挙に立候補することを禁止されず、再選を果たしたケースもある。
逆に、首長は議会を「解散」させる「議会解散権」を持つ。首長が議会を解散させた場合、議会の選挙が行われ、解散後初めて招集される議会において再度不信任決議(議員数の3分の2以上が出席し、その過半数の同意)があった場合、首長は議長通知があった日において失職する。「不信任決議」と「解散」したケースがニュースで取り上げられているので紹介することもできるだろう。
(3)直接請求権
地方自治における住民の権利として、「直接請求権」があることを、教科書p.103「
直接請求権の内容」(図2)で確認する。国の政治と違い、地方の政治には直接請求権が幅広く認められている。
しかし、首長の解職の請求には、短期間で多くの署名を集めなければならないし(地方自治法施行令第92条第3項)、就任後1年間は請求できない(地方自治法第84条)などハードルが高いことを確認する。その背景には、選挙後に落選した側から解職運動が起こり解職合戦になってしまう場合や、職務をある程度経験した上で判断する必要があることを補足する。
その上で必要な署名について、有権者の3分の1とはどのくらいかを、那覇市を例に生徒に考えさせる。那覇市の有権者数253,617人(2026年1月26日現在)を紹介し、その3分の1を計算させてもよい。すると、84,539人と具体的な数字がでてくる。さらに具体的にイメージさせたければ、生徒の通う学校の生徒数と比較させてもよいだろう。
解職の請求の後には住民投票が行われ、住民の過半数の賛成が必要なこと、地方公共団体の法である条例も住民からの請求で制定することも制度上は可能であることにもふれる。
(4)条例
次に、「条例」について、教科書p.103「
さまざまな特色ある条例」(図3)を活用する。例えば、神奈川県鎌倉市は観光都市で、年々観光客が増え、オーバーツーリズムなどの問題が起きていることから、公共のマナーに関する条例があることを紹介する。
また、生徒が住んでいる地方自治体の条例をタブレットで調べさせてもよい。例えば、那覇市の「ポイ捨て防止条例」は、街中での空き缶などのポイ捨てをなくすことや、美化促進重点地域(国際通り・沖映通り)などでポイ捨てをすると1万円以下の過料が科せられることもあることなどを紹介できるだろう。
さらに、生徒が自分ごととして捉えやすい条例を紹介してもよい。最近施行された愛知県豊明市のスマホ使用条例や香川県ネット・ゲーム依存症対策条例をタブレットで調べさせ、それぞれの条例について賛成・反対・どちらでもない(その他)の選択肢を設けて生徒の考えを聞いた。
①「スマホ使用条例」
下の表は条例に対する生徒の意見の例である。
賛成
・学習以外の利用だったら、あまり長く利用していると睡眠時間も短くなり体にもよくないので賛成。
・罰則や強制力がないなら目安としてあってもいいと思う。市で決めたと言われたら、ずっと利用する罪悪感も生まれて本当に利用時間が減ると思うので賛成。
・見直すきっかけを提供することを目的にしているので十分に効果があると思う。守らない人は多いと思うが話題に上がるというだけで十分だし、使いすぎはよくないという認識を広められるので賛成。
反対
・スマホの利用時間を減らすことで、睡眠時間や娯楽などに使える時間は増えるけれど、その人の人生だし使い方は自由ではないかという意味で反対。
・スマホの使用時間を制限したところで睡眠時間が増えるかは分からないし、子どもからすると制限されることによるストレスにつながると思うので反対。
・情報化が進みスマホが便利になっている現代社会と逆なことなので反対。
どちらでもない(その他)
・睡眠時間も大切だけどスマホは大切な情報源であり、いろいろな役割があるので1日5時間などがよいと思う。
・睡眠時間確保のためなら、1日2時間以内の制限ではなく、21時までの時間指定の制限がよいと思う。
その後、他者の意見を聞いた後の自分の意見をまとめさせると次のようなAさんの意見があった。
Aさんの意見
「私にとって、スマホはとても大事なものなのでこの条例には反対でした。しかし、みんなの意見を聞いていると、スマホは特に睡眠時間などに悪影響をもたらすことがあるため、スマホの利用を見直す機会としてはいいかと思いました。今年は受験生なので、生活リズムに悪影響を及ぼさないためにも条例が必要なのかと思い始めました。」
②「ネット・ゲーム依存症対策条例」
下の表は条例に対する生徒の意見の例である。
賛成
・ゲームを長い時間すると、それ以外の日常生活に支障をきたす場合があるから規制した方がいいと思う。午後10時以降は、睡眠に充てた方がいいので、決まりがあった方がゲーム・ライフ・バランスとして大切なので賛成。
・依存症になると危ないので努力義務として対策する分にはよいと思う。こういう条例があるという事実が大切だから賛成。
・依存を防げるのなら絶対にやった方がいい。努力義務なので強制力はあまりなく自分の意識が大切になってくるいい条例なので賛成。
反対
・いちいち時間を決めてしまうとその時間に全部やり切ろうとしてできなかった場合とてもやりたくなるし、時間を決めてしまうとさらに依存症になりやすくなるから反対。
・ネット・ゲームを触らない=依存症の改善にはならないと思う。子どもが興味のある、気軽に参加できるイベントなどを市や県が行って、ゲーム以外にも関心を持たせるようにすることも必要だから反対。
・保護者も常に子どもを見られるわけじゃないから保護者も大変で子どもも反抗的になると思うので反対。
・家庭内で話し合いをしてほしいし、この条例を施行するなら、子どもだけではなく大人も制限したらいいと思う。大人の人だけずるいと思うから反対。
どちらでもない(その他)
・中学生の利用は夜11時までにして、平日3時間、休日は4時間半くらいにした方が息抜きになると思う。
・音楽などもこの条例に入っているなら1時間は短すぎると思うので、もう少し延ばした方がいい。音楽を聴いて勉強する人もいるのでどちらでもない。
その後、他者の意見を聞いた後の自分の意見をまとめさせると次のようなBさんの意見があった。
Bさんの意見
「私はあまりゲームなどをしないので、この条例は別にいいかと思い賛成しましたが、みんなの意見を聞いていると、依存しすぎない程度で時間を決めてやること、そして保護者としっかり家庭で話し合ってルールを決めることが大事だと思うので、別に条例がなくてもいいかと思いました。」
③「条例」を創造しよう
「日常でこんな条例があったらいいなぁと思う条例を考えてみよう」という課題を投げかけて生徒に考えさせた。以下のようなものがあった。
ペット放し飼い禁止条例
近所のゴミ置き場が収集日に犬や猫などに荒らされ、道や歩道にゴミが散乱していて困ったことがあった。野良犬や野良猫はほとんどいないので、飼い主がいるペットのしわざだと思われた。そのことから条例を考えた。犬や猫の放し飼いによって、ゴミがあさられるなど環境が荒らされるのを防ぐ目的で、違反した場合は、飼い主に対し5万円以下の過料を科す。
自習室開放条例
受験生であるため、塾が開いていない時間や休日など自由に勉強したいが、その場所がなくて困ることがあった。だから、自治体が学校の空き教室などを利用し、自習室として開放すれば、受験生は助かるし、沖縄県の学力向上にもつながると、この条例を考えた。しかし、遊び目的や談話室として利用する人がいたら勉強に集中できないので、自習室で騒いだりしたら強制退出をさせる。
朝はできるだけ歩こう条例
歩道を歩いている時にいつも渋滞している場所があり、なかなか車が進まないのを見た時、距離の近い移動であれば歩いた方が早いと思ったし、その方が健康的だと思ったのでこの条例を考えた。道が混まないようにすることと健康維持が目的だが、長い距離を歩くのが難しい人は申請や医師の診断書の提示により免除するなどの配慮が必要になる。
このような活動が自分の住む地域について改めて考えるきっかけとなり、地方公共団体の持つ課題やその解決に向けて、自分ごととして具体的に行動していくことにつながっていくと考えられる。そして、そのことこそ社会参画へつながると思われる。
3 評価について
本教材について、地方公共団体のしくみを理解した上で、二元代表制のメリット・課題、不信任決議、身近な条例など、タブレットをはじめ各種資料を使い調べさせることは、「主体的に学習に取り組む態度」の評価につながる。また、スマホ使用条例、ネット・ゲーム依存症対策条例について自分の意見を持つとともに、身近な条例を創造するなどの「表現」活動へつなげ「思考・判断・表現」の評価として見取っていく。例えば、先述したスマホ使用条例でのAさんは、一人で考えた時は反対の立場だったが、共有後、他者の意見で「睡眠時間への悪影響」に気づき、自分の受験生としての立場とつなげる反応を示し、条例の必要性に気づいている。授業の中でペア学習やグループ学習で共有したりすると、生徒同士の関係性の向上も図られ、より理解が深まると考えられる。
4 おわりに
本稿は「地方公共団体のしくみと住民参加」という教材を通して、そのしくみと住民の関わりを理解し、民主的な視点からそのしくみについて考察するものである。地方自治は「民主主義の学校」と言われるが、住民参加なしでは形骸化する恐れがある。中学生である住民が「民主主義的視点」で時事問題を自分ごととして捉えていく、そんな問題提起になれば幸いである。



