• 中学校 地理

<授業研究 地理> 映画「バベルの学校」を導入に据えたヨーロッパ州の学習 ―移動・共生の実像からEUの結び付きと地域にもたらす影響―

2026年度 前期号

◆授業研究 地理

映画「バベルの学校」を導入に据えたヨーロッパ州の学習

-移動・共生の実像からEUの結び付きと地域にもたらす影響ー

神奈川県 横須賀市立久里浜中学校 総括教諭 菊池 徹

1 単元のねらいと本実践の位置付け 

本単元は、帝国書院『社会科 中学生の地理』(以下、教科書)でヨーロッパ州の単元に設定された問い「ヨーロッパ州では、国どうしの結びつきの強まりによって、地域にどのような影響が生じているのだろうか。」を踏まえたもので、大まかには以下の流れで迫った。

ヨーロッパ州の学習は中学1年生を対象にしている。本校では4月~10月が地理的分野、11月以降が歴史的分野という進め方をしているため、本校の生徒がヨーロッパ州を学習する時期は入学後3~4か月である。生徒の発達段階はさまざまであるため、ヨーロッパ州の学習で鍵となるヨーロッパや移民という言葉は聞いたことがある生徒もいるが、具体像を想像しにくい生徒もいるのではないかと考えた。そこで、単元の導入に際してパリの公立中学校でフランス語の集中トレーニングを受けるための適応クラスを扱ったドキュメンタリー映画『バベルの学校』(資料1)を抜粋視聴し、移動・言語・宗教・文化や習慣の差異・生徒同士の衝突と和解の場面から、移民のいる社会やヨーロッパ州の実像を具体的に捉えさせることをねらい、単元の学習課題について迫らせることとした。

2 導入の工夫 

教科書には、「東ヨーロッパの国から西ヨーロッパの国へ出稼ぎに行く労働者が増えています。」(p.76)、「かつてヨーロッパ諸国の植民地だった(中略)イスラム教を信仰する人も増えてきました。」(p.69)など、移民の増加や多文化共生に関する記述や資料がある。しかし、中学1年生にとっては、移民が来る=外国の人が来る程度の認識になりやすいのではないだろうか。

映画では、同じ教室にいながらも、話す言語が違い、文化・宗教・生活習慣も異なり、生徒がパリに来た事情も一人一人異なることが描かれている。さらに、差別的なまなざしや誤解、クラス内の衝突と和解・理解も扱われる。

映画を用いることで、ヨーロッパ州を学習するに当たって重要な抽象語を先に説明するのではなく、映画の場面を見取り、具体的な出来事から問いを立てることで「いろいろな国の人が住んでいる」、「学校に行かせてもらえない人がフランスに来た」という気付きや、「なぜパリに人が集まるのか」、「なぜ差別や摩擦が生まれるのか」、「なぜ自国でフランス語を学ばずにフランスに来るのか」などの課題意識を形成することができた。これらの実感を伴う気付きや課題意識は、ドキュメンタリー映画だからこそ得られるものであると感じた。

3 単元計画 

4 授業の具体 

第1時は、映画を抜粋視聴した。あらかじめ授業者が映画を全編通して視聴し、見るべき場面を時間管理しリスト化して授業に臨んだ。映画は字幕のみで吹き替えはなかった。視聴する生徒がどれほど映画の内容を理解できるか心配だったが、クラス全体でどのような映画だったかを確認する場面を作り、映画では理解しきれなかった生徒も理解できるようにした。

単元の実施に当たって、映画を見て思ったことや考えたことを書いたりメモしたりするワークシートと授業の振り返りシートを一体化したプリントを作成・配付した(資料2)。

振り返りシートは毎授業の最後に書かせており、①内容のメモ、②本時の振り返り、③次の授業に向けた課題・目標で構成している。第1時のワークシートには次の3つを記入欄として設定した。映画を見て(1)良いと思ったこと、(2)疑問に思ったこと、(3)地域への影響である。次時の授業に生かすため、ワークシートは回収し、生徒がどのようなことを書いたのかを把握した上で次の第2時に臨んだ。

第2時の前半は、ワークシートに記入した3点をクラスで共有した。例えばあるクラスでは、「なぜフランスに人が集まるのか」、「なぜ多様な考えを受け入れないのか」、「なぜ人種差別があるのか」という疑問が多く出た。ここでは、差別や摩擦については、恐怖や誤解、固定観念などが社会の中で現れていることをまとめた自作資料で扱うにとどめた。これらの気付きは、ヨーロッパ州が結び付きを強めることは利点だけでなく課題を生む可能性もあるという視点につなげた。後半では、「映画ではさまざまな言語や宗教が出てきましたが、ヨーロッパ州ではどのような言語や宗教が分布しているのでしょうか。」と問い、ヨーロッパ州の言語・宗教の空間的な広がりの特色を教科書p.69 、から読み取った。

第3時は、外国から来た人々のフランスでの在留目的(就労・家族・留学・人道的など)や出身地域の傾向を示す資料を授業者が作成し、読み取らせた。本資料から読み取れたことは、映画の場面と照合させた。加えて、EU内の移動に関しては、賃金水準や雇用機会も要因になることを教科書資料(p.76 )で扱った。映画で描かれたパリに来た理由(フランス語を学ぶため、将来の就職のため、安全のためなど)を出発点として、ヨーロッパ州における移民の一般的説明に至らせた。

第4時は、第3時の学習を踏まえて、「パリに来る目的は分かったが、人々が外国であるフランスに移動できるのはなぜか?」という問いをもとに、EUの仕組みや特色を教科書資料(p.70~71)から読み取った。ここではEUの仕組みや特色を、映画の場面にあった言語や宗教の違い、パリに集まる理由と関連付けて認識させることを目指した。

第5時では、ヨーロッパ州の農業地域と特色を教科書資料から読み取った。小学校でも学習していた食料自給率の資料(p.73 )を扱い、日本と比較させることも行った(図3)。

第6時では、ヨーロッパの航空機産業の国際分業を取り上げた。国際分業は、得意技術の持ち寄り・資金とリスク分散・関税面の有利さ・雇用の影響などを表に整理するとともに、課題も扱った。

第7時では、学習課題への解を振り返りシートにまとめた。当初は感想にとどまっていた記述が、単元末には、移動の理由、EUの仕組み、工業の具体例を結び付け、ヨーロッパ州が結び付きを強めることによる利点と課題を併記できる生徒もいた(資料2)。一方で、多様性への対応や共生の難しさが生まれるといった記述も見られた。映画に出てきた教室と、ヨーロッパ州の単元で学習したEUの仕組みやヨーロッパ州の特色が生徒の中でつながった点が本実践の成果である。

5 主体的・対話的で深い学びを支える発問と評価のポイント 

本単元では、資料の読み取りを地域への影響につなぐようにし、学習課題に立ち返ることで概念的理解を目指すことを意識した。具体的には、映画で得られた印象をそのままで終わらせず、「映画ではこう見えたが、実際ヨーロッパ州ではどうなのか」という検証課題にした。例えば、言語・宗教の分布や、EU内での移民が当てはまる。また、これらの現象はEUが「大国に対抗しうる規模で経済的結び付きを強め、EU域内外の人・モノ・お金の移動を円滑化した結果」につながると整理した。ヨーロッパ州の具体的状況が描かれた映画を用いることによって、映画→具体的資料→EUの理解という往還を繰り返し、単元における学習課題の解決を目指した。

評価は、単元の学習課題に対する記述内容で判断した。学習課題「ヨーロッパ州では、国どうしの結びつきの強まりによって、地域にどのような影響が生じているのだろうか。」に対して、良い点・悪い点を具体的に書けたらA評価とした。本来ならば多面的・多角的な文章が書けることがB評価であるかもしれないが、まだ入学間もない1年生のため、多面的な文章を良い面・悪い面と具体的に示して、書けるようにすることを目指した。

6 指導者用デジタル教科書の活用 

筆者が所属する横須賀市では、指導者用デジタル教科書(以下、デジタル教科書)が採用されている。授業では、昨年度導入された電子黒板と併せて使用している。

デジタル教科書は、教科書写真や統計資料などを拡大提示し、注目すべき点を書き込むことができるため、主に資料読み取りの場面で非常に有効であった。

例えば、ヨーロッパ州が高緯度の割に暖かい理由を説明する際には、教科書p.66 「ヨーロッパ州の自然」を電子黒板に投影した。投影した地図にペン機能で北大西洋海流や偏西風などの情報を書き込んだ(図1)。赤矢印は北大西洋海流を示し、青矢印は北ヨーロッパと南ヨーロッパを示し、黒矢印は偏西風を示している。教科書p.66 は日本列島との緯度を比較できる仕組みになっているため、北海道に比べて温暖な理由も扱った。地図資料の見方を確認していく上で、デジタル教科書を投影しそこに直接書き込める機能は欠かせない。

また、教科書p.71 (図2)や教科書p.73 (図3)のように、教科書では小さく掲載されている資料であっても、デジタル教科書を使って電子黒板に映し出すことで、大きく見やすく提示できる。

以上のように、本単元では教科書の単元学習課題に依拠しながらも、映画を具体的資料として用いることで、学習者がヨーロッパ州を捉えやすくする実践を紹介した。しかしながら、より探究的な学びにするためのデザインや教師の発問などにはまだまだ改善の余地がある。今後も引き続き授業改善に努めていきたい。