• 中学校 歴史

<やってみよう! 社会科でAL> 「主体的な学び手」を育む、歴史的分野の授業づくり -『三酔人経綸問答』熱き三人の論争が描く国づくりの未来図-

2026年度 前期号

◆やってみよう! 社会科でAL

「主体的な学び手」を育む、歴史的分野の授業づくり

─『三酔人経綸問答』熱き三人の論争が描く国づくりの未来図─

静岡県 沼津市立長井崎小中一貫学校 教諭 勝又 悠太

1 はじめに 

近年、授業改善が方法論に偏り、「どのような活動を取り入れるか」が目的化する授業が散見される。本来の「主体的・対話的で深い学び」は、子どもが自ら問いを立て、社会科の見方・考え方を通して他者と考えを交わし、自分の価値観を更新し続ける学びにこそ、その本質があると考える。AL(アクティブラーニング)の目指すところも、形式的な活動や方法の導入ではなく、教科ならではの学びを通じて「主体的な学び手=アクティブ・ラーナー」を育むことにある。本授業では、歴史を“過去の出来事の暗記”として捉えるのではなく、当時の人々が直面した選択や葛藤に触れながら、自ら社会の在り方を構想しようとする学びをつくることを目指す。

2 単元構成と授業のねらい 

本単元では、近代国家として歩み始めた明治日本が国際情勢の変動の中でどのように針路を模索したのかを捉えることを目指した。子どもたちは、当時の日本が直面した課題を多面的に理解し、国家としてどのような判断が求められたのかに目を向けていく。その際、中江兆民『三酔人経綸問答』に登場する三人(紳士君・豪傑君・南海先生)が示す国家像は、明治日本が模索した針路を象徴的に示す教材(『社会科 中学生の歴史』(以下、教科書)p.204~205)として適している。歴史を暗記するのではなく、限られた条件下で意思決定した人々の視点に触れ、自分の考えで国の在り方を検討する学びへとつなげたい。こうした学習を通して、歴史的事象を構造的に捉え、根拠を持って考えを形成する力や、社会の課題を自分事として向き合う姿勢を育むことをねらいとした。

3 授業展開 

(1)第1時 問いを共有する/見通しを持つ

単元の導入では、子どもたちと共にこれまで学習してきた明治政府の近代国家への歩みを確認しつつ、「明治政府の予算編成員の一人として、日本の行く道を決めよう」というパフォーマンス課題(問い)を提示する。限られた予算(1億円)を「教育」「産業経済」「軍事力」「外交」の四分野に配分し、総理大臣に提案する役割を通して、生徒には国家の未来を自ら考える必要性を実感させたい。課題解決を進める中で、当時の日本が置かれた立場や制約を理解するには、19世紀後半の世界情勢や列強の動きが重要であることに自然に気づき、資料(図1)を基に多面的に課題を把握していく。

(2)第2時 問いの解決に向けて視点を得る

次に、中江兆民『三酔人経綸問答』に登場する紳士君・豪傑君・南海先生の主張(図2)を比較し、それぞれが描く国家像の特徴を読み取る。三者の主張を検討することで、明治政府が取り得た多様な選択肢を多面的に理解し、国家方針を考える際の観点を整理していく。

(3)第3時 問いに対して自分の考えをつくる

続いて、子どもたちは、明治政府の予算編成に携わる立場となり、「教育」「産業経済」「軍事力」「外交」の四分野に予算をどのように配分するかを検討する。世界情勢や三者の国家像、そして当時の政府の歩みを踏まえながら、限られた予算の中で優先順位をつけて思考を深めていく。

(4)第4時 自分の考えを表現する

単元のまとめとして、子どもたちは自身が構想した予算案を「国の未来を決める提案」として総理大臣に提案する形式(図3)で発表する。その際に、「なぜ、その配分としたのか」「誰の国家像を参考にしたのかとその理由」「どのような日本の未来を描いたのか」を根拠と共に説明する。これにより、歴史的事象を当時の人々の立場から考え、自ら判断して提案する主体的な学びへとつなげる。

以下は、実際の授業での発表資料の一部である。

4 おわりに 

子どもたちは『三酔人経綸問答』を手がかりに、明治政府の意思決定の背景や制約を考察し、限られた予算の中で国家の未来を構想する活動に取り組んだ。こうした学びにより、歴史的事象を単なる過去ではなく、自らの判断や価値観と結び付けて表現する姿が見られ、主体的に考える姿勢が育まれた。本授業は、子どもたちが現代社会の課題に向き合う力を育む契機となり、社会科教育の本質を体現する実践となった。また、「限られた条件下での意思決定」の場面をつくる単元構想は、社会科の他分野の授業にも応用でき、歴史を当時の人々の選択の過程として捉える視点が生まれ、社会科全体を貫く重要な学びの可能性を持つ。