出前授業(大学 教員養成課程)

出前授業(大学)

帝国書院では、教員養成課程の学生さん向けに、地図帳指導の方法やデジタル教科書を活用した授業などについて、ゲストティーチャーとして講演を行っています。

今回は、2025年11月21日にお茶の水女子大学において、社会科教育法を受講している学生(大学2年生)約20名に向けて、デジタル教科書の機能の紹介と、各機能の開発意図について講義を行った様子を紹介します。

講義の様子

【講義タイトル】
社会科・デジタル教科書の最前線!~デジタル教科書学ぶこれからの社会科を考える~

デジタル教科書の機能や開発意図の説明
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教員免許の取得を目指す学生の皆さんに、まずは次期学習指導要領では現在教材として位置づけられているデジタル教科書が教科書として使用できるようになる見通しであることに加えて、指導者用デジタル教科書の普及率が現在大幅に伸びており、地図帳は3校に2校、地理・歴史・公民の教科書は5校に4校の割合で導入されていることなどについて説明しました(中学校)。

今後、教育実習生として赴く学校では既にデジタル教科書が活用されている可能性もありますね。

その後、地図・地理・歴史・公民のデジタル教科書を実際に操作しながら、どんな機能が搭載されているのか、その機能は授業のどんな場面で活用されることを想定して開発されたのかについて説明しました。

「やってみよう」と題したワークでは、下記のような課題に取り組んでもらいました。

ワークショップ
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ワークショップの時間は、これまで説明された4書目のデジタル教科書の機能を踏まえて、どのように実際の授業で活用するのかグループごとに考えてもらいました。
学生のみなさんは、この後の時間で模擬授業を行うグループごとに分かれ、模擬授業でどの単元を扱うか、なども踏まえて話し合っていました。

考えのまとまったグループから、Padlet(オンライン掲示板アプリ)に自分たちの考えを下記の項目に沿って書き込んでもらいました。

記入された活用方法の案(Padlet記入画面)

短い時間で考えるのは大変だったと思いますが、どのグループも積極的に意見交換してくれました。

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授業後のインタビュー

授業後、デジタル教科書を実際に操作してみてどうだったか、3名の学生さんにインタビューさせていただきました。

帝国書院:みなさんは、高校生の頃コロナでオンライン授業も多かったのでしょうか?その時にデジタル教科書を使ったりしましたか?

学生1:中学3年生がちょうどコロナで、タブレットが支給されてオンライン授業になりました。共同編集とかそういう作業をタブレットでやったのは中学校までで、高校ではGoogleClassroomを連絡網として使っているぐらいだったと思います。

学生2:今日の講義の中で、指導者用のデジタル教科書の導入率がかなり高いというのは本当に驚きました。

学生3:山手線一週をなぞって距離を測るっていうワークをやって、ああいうことは紙ではできないので驚きましたし、すごく楽しいなと本当に思いました。

学生1:私も、地理が一番デジタル教科書の使いがいがありそうだなと思っています。 高校生の時に、例えば気候区分の話をする時に、紙に印刷された雨温図があって、上からカラーペンで線を引かされたりした記憶があったんですけど、デジタルで重ねて比較したら違いが一発で分かる!みたいなところが、デジタル化することのメリットかなと思っています。

学生2:私は歴史の教科書の挿絵を要素ごとで見る機能に感動しました。私が中学生の頃に歴史の教科書を見てた時は、今よりずっと挿絵の使われてる範囲が小さくて、「こんな感じの時代だったんだ」ぐらいの、外観としてつかむための教材なのかなって思ってたんですけど、今日操作したデジタル教科書には、挿絵にちゃんと教えたい要素がしっかり盛り込まれていて、それをツールを使うことで、ここにこういう意図があるんだっていうのがはっきりわかるようになっていて、授業を受ける側としても気づきやすいし、教える教員の立場としても、きっと示しやすいんだろうなと感じました。

帝国書院:今日、教科書の通常ページの図版を比較できたら面白いよねっていう意見も出ましたね。そういうところはこれからもっとデジタル教科書の機能をブラッシュアップできそうだなと思いました。

学生2:これは高校生が多いかもしれないんですけど、日本史は教科書を見ていたら次に資料集を開いてという指示があって、さらに資料集の何ページのこんな地小さい資料を探さなきゃいけない、という場面がよくありますよね。デジタル教科書だったら、資料集要素も全部含んでくれると、手間が少なくていいなと思いました。

帝国書院:確かに社会科って教材が多いですよね。地理もそうなんですけど、参照資料の行き来がすごく多いので、そこがシームレスになればなるほど、教える側も受ける側もストレスは減るのかなと思います。


帝国書院:今日の講義の中で、授業で使えそうだなっていうところまではいけましたか?グループワークを取り入れてみましたが、なかなか意見が最初出なかったので、みんな悩んでるのかなって思ってみてました。

学生1:ちょっと情報が多くて…こういうツールがあるんだ、というところまでは理解できましたが、それを使いこなして教えるとなると、まだもうちょっと時間かかるかなって思います。実際にデジタル教科書を使って勉強してきた世代ではないので。授業にこのツールとこのツールを組み合わせて…とかも本当はもっといろいろできるんだと思うんですけど、全然イメージはまだ湧いてないですね。

帝国書院:デジタル教科書の欠点が実は一つあって、それは今言ってくれたように機能が多すぎるってことなんです。今日の講義の最初にした学習指導要領の説明でも、今の教科書の情報量が多すぎて網羅的な教え方になってしまっていることが課題というお話はしたのですが、本来その教科の学習の中で伝えたいことを伝えるためにデジタルコンテンツを役立ててもらいたい一方で、便利であるがゆえに機能がどんどん増えてしまう。わかりやすいように授業支援ツールで使い方を示すと、今度はそういう教え方をしないといけないんじゃないかって、型にはめてしまう危険性がある、そのあたりのバランスが本当に難しいところです。


帝国書院:最後にデジタル教科書について、もっと知りたいなっていうことがあれば教えてほしいですし、社会科のデジタル教科書全般についてもっとこういった機能があればいいなとか、ざっくばらんにご意見をもらえたら嬉しいです。

学生2:デジタル教科書を今日初めて見て、表やグラフをスライドの操作で途中まで出したりできる機能とか、すごくおもしろいなって思ったのですが、これをどう中学生に見せたり、使わせたりすると効果的なのかっていうところはまだ自分に授業のアイデア自体が無いので、わからないなって思いました。デジタル資料の活用をもっとこの先学んでいけると、もっと抵抗なく授業の中で使うことができるようになるかなと感じました。あと、 私は公民が好きなので、公民のデジタル教科書を結構見てたんですけど、動画とか入ってるのはすごく嬉しいけど、地理歴史と比べて、「紙ではなくデジタルを使うメリット」みたいなのが、少ないのかなと感じました。どうしてなのかは分からないですけど…

帝国書院:確かに公民の教科書はそういう部分はあると思います。だからこそ、今回令和7年度のデジタル教科書では「一般コンテンツ」と呼んでいる、教科書紙面の資料に紐づいた動画やグラフなどのコンテンツの充実に力を割きました。ほかにも、特に経済単元では「ぱんSim」というパン屋の経営シミュレーションを通じて企業経営だけでなく、金融資産についてや労働に関する法律についてなど、経済単元を網羅したコンテンツを用意しています。経済単元はこういった工夫が比較的やりやすいのですが、政治や国際は概念的な話が多いので、「ぱんSim」のような操作や作業を伴うコンテンツの開発が難しい分野です。担当者も苦労しています。そんな中でもボートマッチのコンテンツも今回新たに入れていて、政治や国際の部分もなるべく身近に感じられるようにという意識で作っていました。

学生2:あと、これは私の専攻分野で特別支援教育系に関する話なんですけど、社会権とか、そういうところの中で、民族の問題とか、部落の問題とか、そういったものに加えて障害やバリアフリーに関する話ももっとあると嬉しいなと思いました。これは私が授業の時にやるとしたらやってみたいなっていう希望なんですけど、ぜひそういったコンテンツも入れてほしいと思いました。

帝国書院:障害やバリアフリーに関するコンテンツは、確かにまだまだ少ないですね。分野ごとのコンテンツ数のばらつきは今後なくしていきたいと思います。特別支援に関しては、教科書の中身もそうですが、支援が必要なユーザーへの対応という部分も今すごく求められています。例えば読み上げ機能であったり、弱視の子のための拡大機能であったり。最近は外国にルーツがある生徒も増えているので、多言語の対応もあります。そういったものすべてに対応するのはなかなか大変なんだけど、そういった部分も紙じゃなくてデジタルだといろいろできることがあるのかなと思って取り組んでいます。

学生3:デジタル教科書の中身や機能の話からは少し離れてしまうんですけど、ずっと疑問に思っていることがあって。フィンランドとかデジタル教科書もかなり早い段階から導入していたと思うんですけど、今逆に向こうって紙の教科書化が進んでるという話を聞きますよね。その理由が、紙の方が記憶力的には定着しやすいからだっていうような研究もデータとして上がってきてるって報道されていますよね。デジタル教科書もとてもいい面がたくさんあるというのを、今回体験してわかったんですけど、日本はこの先どうなっていくんでしょうか。デジタルと紙を併用させていくっていうのが一番いいのかなと思うんですけど、もちろんそうなると机のスペース的な問題とか、普通にそもそも端末が重いっていう問題もありますよね。前半の講義の中で、次の指導要領ではデジタル教科書が正式な教科書になるっていうお話もありましたが、そうなると今後はデジタル教科書のみになってしまうのでしょうか。

帝国書院:今のところ、2030年になったら3つの選択肢が教科書採択地区ごとに選択できるような形になると思います。まずは、本当の紙だけ。2つ目はデジタルだけ。3つ目はその中間で、今って紙の教科書に二次元コードが印刷されてて、それを読み込むとデジタル教科書的な内容が出てくるみたいな形ですね。今日はデジタル教科書の話をたくさんしたけど、うちは出版社なので、紙をなくしたいとは全く思っていないんですよ。ただ、デジタルでしかできないところも確実にあるので、単純に二項対立みたいに考えてしまうのは良くないと思っていて、それぞれのいいとこ取りで作っていくのがいいのかなと思います。
書くのもやっぱり大事なので。書くことの大事さっていう面からすると、教科や学年によってはオールデジタルが選べないところもあると思いますよ、例えば国語の小学校低学年とかね。小学校一年生とかはオールデジタルでは覚えられないだろうし、やっぱり手で書くことが必要になると思います。逆に体育はオールデジタルでもいいんじゃない、とか。高校生ぐらいになれば、ある程度デジタルでやってもいけるんじゃないかとかね。シンキングツールなんかを使って他者参照したり共同編集したりっていうのは紙でやったらものすごく非効率的なので、そういう部分はデジタルにしていけばいい。だから出版社としては、紙とデジタルが融合したようなやり方、子供にとっての最適化みたいなことを、2030年までにしっかり模索していかないといけないわけです。次の教科書作りは本当に難しいなと感じています。

学生1:私は、地図帳に直接書き込みたい派なんですね。紙の方が自由にマーカーとかペンとかで書き込めると感じているんですが、今日デジタルの地図帳を初めて使ってみて、雨温図を重ねて表示できるとか、地図を白地図に戻して、田畑や都市名といった要素別にレイヤーで重ねていくっていう機能は、デジタルならではですごくいいなって思いました。紙の自由に書けるっていう利点も生かしたいし、デジタルの利点を生かしたいって思ったら、紙とデジタル、2個持ちになるんでしょうか。例えば完全にデジタルにすると、一つの画面で教科書も地図帳も行き来して見なきゃいけないとなると、それはすごく見づらいかなと思いました。やっぱり書籍として、教科書と地図帳が一個一個独立して机に並べた方が見やすいんだと思います。そういう部分は、今後デジタル化の流れの中でどんな方向性になるんでしょうか。

帝国書院:先ほどの話と重なる部分も多いけど、すべてがデジタルになることは多分ないと思っています。おっしゃるようにそもそも紙の教科書って広げるとA3サイズだけど、タブレットの画面はこの大きさしかないから、単純に縮小されて見づらくはなってしまいます。我々としては紙で見せたいところは紙、でもデジタルにしたいところはデジタルで、というところを追求していくしかないのかなと思います。例えば100万分の1の地図とかは、大きく地形を捉えるための地図は紙に役割を任せて、鉛筆でどんどん書き込んでもらうけど、比較したり重ねたりとかそういったものはデジタルが受け持つっていうイメージですかね。うまく住み分けが出来たらいいなとは思っています。うちの会社は地図好きな人多くて、そういう人は言わば「紙の一覧性」みたいなものを大事にしていますよね。

インタビューにご協力いただいた3名の学生さん、本当にありがとうございました。