〈帝国書院 取材班〉

 パナマ運河は,太平洋と大西洋を結ぶ全長約80kmの運河である。スエズ運河を拓いたレセップスが開発に着手したが,難工事と疫病により放棄。その後,アメリカ合衆国が建設を進め,10年の歳月をかけて1914年に開通した。1999年にパナマ共和国に完全返還され,現在,パナマ運河の通航料が大きな収入源となっている。
 パナマ運河は,運河中央部に海抜26mのガトゥン湖(最高点)が存在し,標高差があるため,閘門式の運河(閘門を用いて船の水位を上下して通過させる)である。標高差がないスエズ運河と異なり,パナマ運河内には三つ閘門がある。大西洋側にガトゥン閘門,途中にペトロミゲル閘門,太平洋側にミラフロレス閘門となっている。
 帝国書院取材班は,2010年9月にパナマ運河を訪問。大西洋側から船に乗り,船から閘門を通過するようすを撮影した。また,閘門を船が通過するようすも間近で撮影することができた。
 その当時から,船舶の大型化に対応するための対策として,パナマ運河の拡張工事が行われており,現在の景観は少しずつ変化していると思われる。
 以下,ガトゥン閘門で撮影した動画10点の概要を紹介したい。
movie①:ガトゥン閘門内には三つの閘門室(注排水区画)があり,一つの閘門室内で8~9m程増水させて,三段階で海抜0mから海抜26mまで船の水位を上げる。最初の閘門室で,増水する前のようす。閘門室内で水位がどこまで上がるのかが見える。
movie②:閘門室内の壁上部に数字が見える。数字は入船時の位置のめやすとなっている。
movie③:閘門室内が増水しているようす。
movie④:閘門室内の増水が終了して,門が開くようす。
movie⑤:注水前に門が閉まるようす。
movie⑥:タグボードが大型船を誘導しているようす。
movie⑦:大型船が閘門を通過するようす。パナマ運河を通過できる船の最大サイズは,「パナマックスサイズ」とよばれ,全長294m,全幅32.3m,喫水12m以下に制限されている。この船も幅がぎりぎりであった。
movie⑧:電気機関車が大型船(パナマックスサイズ)を牽引するようす。大型船は,少しでも斜めになると閘門室内の側面にぶつかってしまうため,電気機関車が進行方向の前側に左右2両,後ろ側に左右2両で均等に牽引している。電気機関車は日本製であった。
movie⑨:電気機関車が大型のコンテナ船を後ろ側から押すようす。電気機関車は船の入船時から閘門室内で船の水位が変わった後も連続して牽引するため,線路の途中には約27度の急勾配がある。その勾配を越えるために,閘門の両側にはラック式(歯形)の線路が敷設されている。ちなみに,機関車にある「ACP」のロゴは,「パナマ運河庁」の意味。
movie⑩:タグボードが,大型船を牽引し終わった後に移動するようす。大型船が上手く閘門室内へ入るために,タグボードが活躍している。
 パナマの取材を終えて,パナマ運河のもつ重要性と開通の意義を改めて感じた。実際に閘門式運河で水位が上がっていくのを体験したが,標高差の壁を見事に乗り越えたことに感心をした。また,パナマ運河により世界の海運は大きく変わり,船の大きさも通航可能なサイズに規定されるようになったことを実感できた。また,世界中の銀行が通航料決済のためにパナマに進出したが,パナマシティ新市街に高層ビルが建ち並んでいるようすを見ることができた。2014年現在,パナマ運河が開通して100年が経ち,近年中に拡張工事が終了すると,今まで通れなかった超大型船も通航できるようになり,世界の海運はまた変わるかもしれない。
 なお,パナマ取材の成果は『地理・地図資料』2011年度1学期号 弊社HPにも掲載されているので,ご覧いただきたい。

 
パナマ運河断面図
ガトゥン閘門 増水前   側面
 
増水中   開門中
 
閉門   タグボード 大型船誘導
 
大型船 目の前移動   機関車牽引
 
機関車とラック式線路   タグボードの役割は多い

   
取材班(メキシコにて)