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ヨーロッパ取材記 2005年
新しい写真と情報を求めて

@ワイン農学校のぶどうの収穫のようす(フランス,ボーヌ近郊)

私たちが地理の教科書や地図帳の編集を進めるうえで重視していることの一つに,新しい写真や情報をいかにして入手することかということがあります。今回取材で訪れたフランス・ドイツ・デンマークは,日本国内でもそれらを比較的入手しやすい国々です。しかし,最新の写真やローカルな情報を探し出そうとすると,期待通りのものはなかなか見つけることができません。

例えば,フランスのぶどう畑の写真は,専門の写真エージェントで何枚でも見つけることができます。しかし,ぶどうを収穫しているようすや,ぶどうからワインを醸造する作業の写真などをそこで見つけることは簡単ではありません。まして,撮影後2〜3年以内のものに限るとなると,非常に難しいことになります。

こうした状況を受け,今回はおもに高校地理の教科書に頻出のテーマから取材の題材を設定しました。フランスはぶどうの収穫,ドイツは混合農業の農作業,デンマークは高齢者福祉施設です。2005年9月下旬,私たち取材班4名は成田からヨーロッパへ向け出発しました。

ワインの産地を訪れる(フランス)

最初の訪問地フランスにおける取材の主眼は,ぶどうの収穫と醸造のようすを撮影することでした。フランスにおけるワインの産地といえば,ブルゴーニュとボルドーの二大産地が有名ですが,私たちが取材先として選んだのは,パリからのアクセスの良さなどの理由からブルゴーニュ地方としました。ブルゴーニュは,高級ワインのロマネコンティやシャブリ,毎年11月第3木曜日に解禁されるボージョレヌーヴォーなどで知られています。

ブルゴーニュにおけるワイン作りは,ローマ帝国の支配を受けたことで広がりました。中世ではおもに修道院と貴族がワイン作りを行っていましたが,1789年のフランス革命後に農民に土地が分配されるようになると,様々な人がワインの生産に従事するようになりました。ブルゴーニュにおけるぶどうの収穫期は,その年の天候にも左右されますが,通年9月中旬から1ヶ月間ほどで,私たちは収穫が始まってから2週間ほど経ったころに取材を行いました。

パリのリヨン駅からフランスの新幹線T.G.V.に乗って1時間40分ほどで,ブルゴーニュの中心都市ディジョンに到着します。そこから近郊の町マルサネにあるワインのシャトー(醸造所)に移動し,取材開始です。マルサネのシャトーはぶどうの生産から加工まで自社で行っており,ちょうど畑から収穫したぶどうを発酵させてワインを生産する過程を撮影することができました。

収穫したぶどうは,まず人の目で状態の良いものと悪いものに選別した後に,良いものだけを絞り器に入れ,茎を取り除くと同時に果実をつぶします。つぶされて分かれた果皮と果汁は,まとめて3階にある濾過用タンクに送られ,そこからしみ出してきた果汁が2階にある発酵用タンクに落ちます。タンクの中で発酵が進む過程で熱が発生しますが,発酵しすぎないよう40℃までに保つ管理がなされていました。発酵が終了したら1階にあるタンクへ送られ,そこでビン詰めの作業が行われます。ビン詰めされたワインは,湿度・気温の安定した地下の貯蔵庫で保管され,最後にラベルが貼られて出荷されていました。

マルサネではぶどう収穫の様子も撮影しましたが,収穫は現在も人の手で行われ,大学生や失業者や東欧系の人などが多く従事しているとのことでした。

マルサネからブルゴーニュにおけるワイン取引の中心地ボーヌに移動して,そこのワイン学校を取材しました。ワイン学校では,高校生が約400名在籍し,ワインの生産や輸出入,ソムリエの技術などを学んでいました。

ワイン学校はボーヌ近郊に20haのぶどう畑を所有し,年間10万本のワインを生産して80万ユーロを売り上げているとのことでした(写真@)。ワインは土壌・地面の傾斜・水はけ・日照の具合などの影響を受けますが,ワイン学校の先生によると,土壌の成分が粘土質か石灰質かによって,赤ワインを作るか白ワインを作るかどうかを決定しているようでした。

ロマネコンティの畑や隣接するロマネのぶどう畑も訪れましたが,ロマネの畑では馬が畑を耕している姿も見ることができました。

ブルゴーニュでは,ワイン作りが基幹産業として多数の人が従事していること,そして様々な作業が機械化されつつも,人が手間をかけてこそおいしいワインができることなどを,取材を通して実感することができました。

農家に宿泊する(ドイツ)

Aパンケーキを焼くお父さん(ハノーファー郊外)

ドイツでは1週間単位で農家に滞在し,乗馬や農作業などを体験する余暇が人気です。私たちは農作物の収穫や酪農の取材をしながら,農家の生活を少しだけ体験する目的でハノーファー近郊の農家に1泊しました。

日本を出発する前から民放の某テレビ番組「○○○○滞在記」に影響され,素朴な農家の人々との感動的な出会いを勝手に想像していました。実際に,農家のすばらしいご一家に歓待していただき,ドイツの農家の生活を垣間見ることができました(写真A)。

お世話になった農家は,とうもろこしやてんさい,ライ麦の栽培のほか,乳牛を60頭飼育しており,60代後半のお父さんとお母さん,4人の子どものうちの跡継ぎの次男,手伝いの作業人が働いていました。最近は風力発電やバイオマス発電も始め,新しい農家のあり方を模索しているところだそうです。

バイオマス発電は,収穫したとうもろこしや乳牛のし尿を利用してガスを発生させ,そのガスで発電タービン回すことで電力を得ます。今のところ,このバイオマス発電から得られる利益はわずかで,何とかやりくりしているのが実情のようです。

混合農業を本業とする彼らは,毎朝・毎晩搾乳をする必要があるため,毎日規則正しく生活を送らなければなりません。まだ年が若い次男にとっては,遊びに出かける暇もなく働かなければならないのが少しつらそうに見えました。ただ,私たちが訪問したときは,翌日に友だちとハンブルクへ遊びに行くことになっているということで,それをとても楽しみにしているようすでした。また,お父さんは養蜂やうさぎの飼育などをささやかな趣味にしているとのことですが,多忙な時期に私たちを快く迎え入れてくれた一家の姿に感心しました。

滞在中は母屋ではなく,滞在客用の別棟に泊まりました。ドイツでは,夕食に温かいものは食べないと聞いていましたが,実際に昼食は肉を中心にした“温かい食事”を,夕食はパンとハム,チーズなど中心にした“冷たい食事”を家族と一緒にいただきました。

お父さん自身はポーランド東部の出身で,30年前からここで農場を始めたそうです。ドイツの統一で変わったことは何ですか,という質問すると,「物価が1.5倍ぐらい上がった」「統一前のほうが良かった」と迷わず返答がありました。ニュースや歴史年表からはわからない,現実の人々の生活の苦労を感じました。

高齢者福祉施設を訪れる(デンマーク)

Bカフェテリアでくつろぐお年寄り(スヴェンボー)

最後に訪れたデンマークは福祉先進国として有名です。その中でもスカンディナビア政府観光局が推薦してくれたスヴェンボー市は,2000年に老人ケアにおいて“Best city in Denmark”に選ばれた都市です。人口約43,000人,フュン島の南端にあるリゾート地でもあります。

訪れたのは,高齢者福祉施設ですが,日本の老人ホームとは異なります。個人住宅がまとまっていて,そこにヘルパーが頻繁にきて,介護をするという仕組みです。お年よりは自分の家に住みながら,丁寧な介護を受けられるという施設です。

92歳のピーターセンさんを訪れて,インタビューさせていただきました。日本から訪問客があるのなら,是非インタビューされたいと,自分から申し出られたのだそうです。車いすの生活ですが,長い間,工場で働いて,握手した手は骨太で,こちらが驚くほどしっかりしていました。数年前に,奥様が亡くなられて,それ以後,お一人で暮らしていらっしゃいます。近所に住む息子さん(といっても70歳くらい)と娘さんが毎日訪れます。それと,ヘルパーさんが1日3回と食事のときに介助にきます。トイレ・シャワールーム,ベッドルーム,リビングルームと3つに分かれていて,どの部屋も明るく清潔で,自分の家具や思い出の写真に囲まれて暮らすことができます。ピーターセンさんも満足しているようでした。

施設には,共同住宅も設置されています。そこに暮らすお年よりは,自分専用の個室を持ちますが,カフェテリアなどの一部のスペースは共同で,そこで食事をしたり,話をしたり,ゲームをしたりしてすごします。近所に住んでいて,運動のためトレーニングルームにやってくる人や,ティータイムに食事を購入にきてやってきて,お話しをして帰る人もいるそうです。

いま,デンマークでは,老人ホーム(プライエム)からこのような個人住宅(オウンエム)に移行しているのだそうです。そこには,プライエムではどうしても個人を規制することが増えてしまうのですが,自分の家に住んでいるのと同じなので,個人を規制することは少なくなったそうです。また,自助を促すという意味も大きいようです。

カフェテリアに集まっていた皆さんの写真を撮らせていただきました(写真B)。とても,明るく,自然体で,生きることを楽しんでいるという印象を受けました。

急激に高齢社会に突入した日本の高齢者の生活を考える意味で,とても勉強になった取材だったと思います。

取材を終えて

この取材を通して強く感じたことが二つあります。一つは,ヨーロッパの国々では,人々が自分たちの伝統や生活を大切に守っているということです。例えば,フランスのワイン作りは,道具や作り方だけではなく,ワイン作りにかける姿勢を若い人に伝えるところに意義があるように感じました。もう一つは,人々が社会の変化を受け入れながら,世界のどの地域よりも先にその変化によって生じた問題や課題を克服しようと前向きに取り組んでいることです。ドイツのバイオマス発電の取り組みは,決して利益だけを追求しているものではありませんでしたし,デンマークの福祉施設はいかにして人が幸せに生涯をすごすか,といった点を重視していました。私たち日本人が忘れかけていることに気づかされる取材でした。