〈帝国書院編集部〉
 “スリランカ”といって思いつくのは,長い首都名として有名なスリジャヤワルダナプラコッテだろうか。はたまた香辛料をめぐってヨーロッパ諸国がおしよせた大航海時代の歴史だろうか。
 まじめな文章から始めてみたものの,私も2014年12月に訪れるまでこの国のことはよく知らなかった。ここでは,見たまま,聞いたままのことを主観も交えてお伝えしたい。
 まず,なんといっても行ってみたいところは,シギリヤにある「シギリヤロック」だろう(写真①)。世界文化遺産にも登録されているこの岩は,なんと元王宮なのである。この王宮の持ち主は,父を殺して王になったものの,弟からの追撃を恐れて岩の上に王宮をつくってしまったというなんとも変わった王である。登っていく道のりは大変険しい(写真②)が,途中でシギリヤレディとよばれる美しい女性の壁画(写真③)があったり,ライオンの足をかたどった王宮への入り口があったりと見所が多い。小高い王宮からのながめは熱帯林が広がり,見晴らしを遮るものはなにもない。確かに追手がきてもすぐ気づくことができるであろう。まわりには観光地らしいおみやげ屋やレストランなどはなにもなく,観光に立脚しすぎていないありのままの生活を体感することができた。
 次にアヌラダプラとダンブッラを紹介したい。アヌラダプラはこの国で最も古い都市で,約2500年前におこり,その後1400年間にわたって政治や仏教の中心地であった。町全体に宮殿跡や仏教寺院などの遺跡が多数点在している(写真④)。なかでもスリー・マハー菩提樹(写真⑤)はインドで仏陀が悟りを開いた菩提樹のわけ木をもってきたもので,世界最古といわれている。
 ダンブッラには黄金寺院とよばれる寺院がある。これは石窟にできた寺院で,中には紀元前1世紀ごろから1900年代にかけてつくられ続けた壁画や仏像が置かれている。第1窟から第5窟にかけて古い順に並んでおり,とくに第2窟の壁画(写真⑥)はその迫力に圧倒される。
 上記に紹介した三つの観光スポット,実はすべてスリーウィラーという乗り物で移動した(写真⑦)。スリーウィラーはスリランカで最も使用頻度の高い乗り物で,トゥクトゥクともよばれる三輪バイクだ。今回私は航空券しか手配していなかったため,現地での移動は民間バス,タクシー,鉄道,といろいろ乗ってみたが,スリランカの湿気を含んだ風になびかれながら目的地にまで必ずたどりつけるスリーウィラーが断然快適であった。
 ちなみにこの「必ずたどりつける」という部分にはからくりがある。スリーウィラーの運転手に目的地を伝えると,どんなに小さな宿であっても必ず「わかるよ!」という。実際には有名な観光地,ホテル以外はほとんどわかっていないのだが,ここからがスリランカの人々のすごいところ。運転手がひとたび誰かに道を尋ねると,道行く人や他の運転手などがわらわらと寄ってくる。自分がわからないと次から次へとわかりそうな人に声をかけ,しまいには10人くらいで知恵をしぼってくれるのだ。おかげで無名な安宿ばかり泊まっていた私でもたどり着けないなんてことは一度もなかった。
 最後に少しスリランカの人々の生活・文化にも触れておきたい。まず食事だが,3食カレーといっても過言ではない。写真はアヌラダプラで寄った街のカレー屋さん(写真⑧⑨)。家でつくることもあるが,こういったカレー屋さんで数種類のカレーを買って持ち帰ることも多く,地元民で混雑していた。味は激辛だが,たいへんおいしい。香辛料がたっぷりのイメージがあるが,具材の味が生きており,日本人の口に合う。ただし,本当に辛いので胃腸薬は必須だ。
 学校教育で興味深かったのは,中学から全員シンハラ語,タミル語,英語の三つの言語が必修となっていることだ。ただし内紛がおさまってきたころからそのカリキュラムになったため,年齢が上がるほど話せない人は多い。ほかにも仏教とヒンドゥー教の授業があり,今では正月などの宗教行事を宗教問わず皆で祝っているそうだ。内紛を経て,自分とは異なる民族や宗教を理解し,尊重しようとする文化が根付いているように感じた。これらのことを教えてくれたタクシーやスリーウィラーの運転手,電車の隣に座った男の子などは,みんな口をそろえてスリランカは平和を大事にする国だと言っていた。
 紹介しきれなかったが,ほかにも野生の象を探してヤーラ国立公園に行ったり(写真⑩),大航海時代からの要塞都市であるゴールに行ったりと,もりだくさんな旅であった。スリランカの人々の優しさや人なつっこさに助けられ,まさにそこには「光り輝く(Sri)島(Lanka)」があったように思う。
 1月になり,まだクリスマスの飾り付けがされていた空港をあとにした。
 
 
シギリヤロック   シギリヤロックの階段
 
シギリヤロックに描かれている壁画   アバヤギリ大塔(アヌラダプラ)
 
スリー・マハー菩提樹   ダンブッラの黄金寺院(第2窟)
 
スリーウィラーと運転手   街のカレー屋さん
 
街のカレー屋さんで買ったカレー   ヤーラ国立公園で遭遇した象